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タイポロジー

Typology
更新日
2024年03月11日

字義どおりには、類型(タイプ)という概念に基づいて建築の本質や特徴を思考する建築論。ただし建築用語としては一般に、特定の象徴性や用途、形態を共有する「ビルディング・タイプ」に基づく分類を指すものとして定着している。ビルディング・タイプの考え方は、ジャン=ニコラ=ルイ・デュランに代表される18世紀のフランス建築アカデミー教育において登場した。一方で類型の概念を初めて明示的に建築論へ導入したカトルメール・ド・カンシーは、建築形態の歴史的発展における不変の原理・核として類型を抽象的に論じた。近代建築運動では、建物の効率的な大量生産のための標準化・規格化の議論のなかで、ビルディング・タイプは機能主義に基づく平面計画・配列と同一視されるようになった。しかし戦後は、機能主義批判に基づく新たなタイポロジーの議論がイタリアを中心に発展した。例えばジュリオ・カルロ・アルガンは、カトルメール・ド・カンシーの類型論を建築設計プロセスの観点から再評価した。またサヴェリオ・ムラトーリは、ヴェネツィアやローマなどの歴史的都市における連続住宅群と都市組織の関係の分析に基づいて建物類型の歴史的発展を読み解くことで、現代の建築介入の指針を引き出そうとした。後続世代のカルロ・アイモニーノやアルド・ロッシは、建築を都市形態に結びつける概念として、あるいは建築の学問性を担保する基本理念として類型の概念を捉え直した。その後、戦後イタリアのタイポロジー論は、アラン・コフーンやアンソニー・ヴィドラー、ロブ・クリエらによって批判的に継承された。1990年代に登場した「ダイアグラム」の概念と結びつけられて論じられることもある。わが国では、陣内秀信によってムラトーリ学派の議論が紹介されるとともに、アトリエ・ワンなどが建築設計のアプローチとしてタイポロジー論を展開している。

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参考文献

『建築講義要録』,ジャン・ニコラ・ルイ・デュラン(丹羽和彦、飯田喜四郎訳),中央公論美術出版社,2014
『漢字と建築(10+1別冊)』,「建築類型学という概念について」,G・C・アルガン(横手義洋訳),INAX出版,2003
『イタリア都市再生の論理』,陣内秀信,鹿島出版会,1978
『都市の建築』,アルド・ロッシ(大島哲蔵、福田晴虔訳),大龍堂書店,1991
『a+u』1978年2月号,「タイポロジイとデザイン」,アラン・コフーン,エー・アンド・ユー,1978
『コモナリティーズ ふるまいの生産』,アトリエ・ワン,LIXIL出版,2014
Oppositions no.8,“Type”,Quatremere de Quincy、Anthony Vidler(trans.),The Institute for Architecture and Urban Studies,1977
Oppositions no.7,“The Third Typology”,Anthony Vidler,The Institute for Architecture and Urban Studies,1976
The Journal of Architecture vol.20 no.6 (issue: “Type versus typology”),Taylor & Francis,2015