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《タッチ・シネマ》ヴァリー・エクスポート

Touch Cinema, Valie Export
更新日
2024年03月11日

女性美術作家のヴァリー・エクスポートが、見る者と見られる者との窃視症的関係を問題化して1960年代の後半に試みた作品。現実と映画、現実とイメージの関係を反転することで映画を拡張する「エクスパンデッド・シネマ」のひとつに位置づけられている。本作でエクスポートは、自分の裸の上半身を箱で覆い、街中で、通行人に箱の中へ手を差し込むよううながした。映画館という暗い部屋で自分の姿を隠しながらスクリーン上の女性を眺めるという、映画の観客が慣例的に行なってきた鑑賞形式を裏返すように、ここで観客は暗い箱に手を伸ばすよう誘われ、それによってイメージの女性を見る代わりに現実の女性に直に触れることとなった。下腹部のあたりを切除した皮のズボンを履きライフルを持って、映画館で観客のあいだを徘徊する《ジェニタル(生殖器)・パニック》(1969)も同様に、映画の窃視症的問題を扱った作品であった。こうした試みは、単に60年代的な性の解放の流れのなかにある作品としてだけではなく、エクスポート本人が述べているように、それまで客体(対象)であった女性を主体化する、フェミニズム・アートの最初のステップとして捉えるべきだろう。

著者

補足情報

参考文献

Valie Export: Fragments of the Imagination,Roswitha Mueller,Indiana University Press,1994