Artwords®

チャンス・オペレーション

Chance Operation
更新日
2024年03月11日

アメリカの音楽家、J・ケージが1950年代初頭に考案し、実験音楽家らによって活用された、偶然を利用してスコアを作成する手法。「偶然性の音楽」のひとつのヴァリエーションである。コインと8×8のチャートを使用したケージの《易の音楽》(1951)が、この手法を全面的に導入した最初の作品とされる。8×8のチャートは曲名通り儒教の『易経』からとられており、音の高さ、リズム、強度、速度、レイヤー数をコイン投げによって決定するために使われた。ケージは他のチャンス・オペレーションの方法も考案している。折った紙片の隅を小さく切り取ってから開き、穴を音符に見たてる方法(《カリヨンのための音楽第1番》[1952])、紙のシミや汚れを音符に見立てる方法(《ピアノのための音楽》[1952-56]など)である。ケージはこうしたチャンス・オペレーションをスコアの作成だけでなく、レクチャーや実生活における選択にも用いた。さらに、この手法はケージのパートナーである舞踏家のM・カニングハムや、ケージの生徒を含むフルクサスのメンバーによって、ダンス、パフォーマンス、詩、写真などに適用されていった。確かに、偶然を利用する手法自体は過去にも「帽子のなかの言葉」のようなダダイストの実践にも見られる。特にM・デュシャンの《音楽的誤植》(1913)にはケージも賞賛を捧げている。しかし、ケージらの手法にはダダのような既成の芸術に対する否定の姿勢より、偶然を利用するシステムの創造を強調し、偶然の結果を享受する態度が強くあらわれる。チャンス・オペレーションの考案以後、ケージはスコアの作成以外の音楽実践にも偶然を取り入れる、いわゆる「不確定性」へと進んでいった。

補足情報

参考文献

『サイレンス』,ジョン・ケージ(柿沼敏江訳),水声社,1996
『実験音楽 ケージとその後』,マイケル・ナイマン(椎名亮輔訳),水声社,1992
『聴取の詩学 J・ケージからそしてJ・ケージへ』,庄野進,勁草書房,1991
『ジョン・ケージ 混沌ではなくアナーキー』,白石美雪,武蔵野美術大学出版局,2009