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透視図法

Percepective
更新日
2024年03月11日

三次元空間を整合的に二次元の平面に再現する技法。遠近法とも呼ばれ、西洋美術において多くの傑作を生み出す基盤となった表現技術である。古代には中国、エジプト、ギリシャなどの文化圏でさまざまな遠近法の理論が存在していたが、絵画に利用されたのは15世紀ルネサンス期である。人文学者アルベルティが著した『絵画論』は透視図法の手法を構築、難解な数式でなく理論化、公式化した最古のものとされる。建築家ブルネレスキはあらゆる建築物の輪郭が地平線にすべて集約されることに気づき、画家ピエロ・デッラ・フランチェスカは『透視図法論』で具体的な作画の方法論を説いた。奥行きのある、より写実的な絵画表現を得たルネサンス文化は、近代における世界の認識方法を一変させたのである。だが1924年、イコノロジー研究の第一人者パノフスキーはその著書『〈象徴形式〉としての遠近法』で、ルネサンス期に確立した透視図法が視覚的な原理には必ずしも即していなかったことを指摘する。つまり、純粋な数学的空間、無限に続く等質的空間の構造は精神生理学においての空間構造と正反対のものであり、普遍的な視覚構造として考えられている透視図法が実のところ、ルネサンス期に始まる近代の精神構造に特有の理念システムであったと説くのである。彼はこの著書で古代、中世、近代の空間観、世界観を分析し、人間の精神史と対応させて透視図法を再定義した。

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参考文献

『〈象徴形式〉としての遠近法』,エルヴィン・パノフスキー(木田元、川戸れい子、上村清雄訳),ちくま学芸文庫,2009
『絵画論』,L・B・アルベルティ(三和福松訳),中央公論美術出版,1992
『遠近法の精神史 人間の眼は空間をどうとらえてきたか』,佐藤忠良 中村雄二郎、小山清男、若桑みどり、中原祐介、神吉敬三,平凡社,1992
『遠近法の誕生』,辻茂,朝日新聞社,1995