Artwords®

「透明性 実と虚」コーリン・ロウ、ロバート・スラツキー

“Transparency: Literal and Phenomenal”, Colin Rowe and Robert Slutzky
更新日
2024年03月11日

建築史家、建築家コーリン・ロウが1963年に画家、建築理論家ロバート・スラツキーと発表した論文「透明性 実と虚」は、建築の分析とデザインの手法において後世に大きな影響を与えた。この論文で二人は、パブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラックの1911年の作品に見られるキュビスムの絵画の分析から論を展開し、透明性を二種類に区別し、実の(リテラルな)透明性と虚の(フェノメナルな)透明性と命名した。実の透明性とは、ガラスに代表される物質的な素材に表われるものであり、その例としてヴァルター・グロピウスによるデッサウの《バウハウス校舎》(1926)を挙げている。建築史家ジークフリート・ギーディオンは近代建築の特徴として内部と外部の相互貫入、すなわち視線が抜けることを指摘し、そうした効果をもつガラスなどのリテラルな透明性を評価した。一方、虚の透明性とは現象としての透明性であり、概念的なものである。ファサードの面に複数の格子や構成の層が重なり合うことによって、事後的に透明な空間が立ち上がることを指す。ロウは、ル・コルビュジエのプロジェクトなどにそうした傾向を見出すが、後に古典主義のマニエリスムにおける複雑なファサードの操作にも同様な指摘を行なう。ロウは二種類の透明性を指摘することで、ギーディオンによって示されたモダニズムの概念を乗り越えようとし、世に空間の多層性、多義性について考える契機を与えた。その射程は、90年代以降の妹島和世らが実践する、グラデーションをもつ透明性を抱え込んだデザインにも及ぶだろう。

著者

補足情報

参考文献

『マニエリスムと近代建築』,コーリン・ロウ(伊東豊雄、松永安光訳),彰国社,1981
『建築文化』2000年4月号,「特集2 コーリン・ロウ再考」,彰国社