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「トリックス・アンド・ヴィジョン」展

Tricks and Vision
更新日
2024年03月11日

1968年4月から5月にかけて東京画廊が主催した展覧会。東京画廊と村松画廊の二会場において、中原祐介と石子順造の選考した19名の作家が参加した。副題は「盗まれた眼」。開催時には見た者も少なくほぼ無視されたが、評論家の峯村敏明が、本展が「もの派」誕生の「否定的媒介」となったことを継続的に主張していた。そして、参加作家に多く含まれたグループ「幻触」メンバーや石子が一時拠点とした静岡における研究が2000年代初頭に進み、それを踏まえた国立国際美術館「もの派再考」展(2005)によって「もの派」前段階に関わる重要な企画として脚光を浴びた。「錯視と幻影」を指すタイトルの通り、高松次郎を筆頭に遠近法を実体化した立体や鏡を使用した作品など、60年代後半に関心が集中した「見ること」「虚と実」といったテーマに対して原理的にアプローチすることで視覚を惑わす挑発的な作品が集められた。その理念は「見ること」を東洋的な観想へと敷衍した現実志向の「もの派」へ形を変えて引き継がれる(参加者の一人の関根伸夫が同年10月に制作した《位相・大地》は「もの派」の引き金となった)が、理念より際立つのは表現としての具体的な現われ方である。反芸術やハイレッド・センターが孕んでいた不穏、理知的、ユーモラスな性格を軸に、環境芸術、ライト・アート、ポップ・アート、サイケデリック・ムーヴブメントなど同時代の美術および社会動向を受けながらなおかつそれらとはまったく異なるユニークな表現として結実した。60年代の入り組んだ潮流の独自解釈であるとともに、社会と美術が最も接近したこの時代のひとつの集約ともいえる企画である。

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補足情報

参考文献

『もの派再考』展カタログ,国立国際美術館,2005
『東京画廊六十年』,東京画廊+BTAP,2011
『石子順造的世界 美術発・マンガ経由・キッチュ行』,美術出版社,2011