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ハードウェア・ハッキング

Hardware Hacking
更新日
2024年03月11日

ハッキングが一般的にはコンピュータのソフトウェアを対象とするのに対して、スコット・フラムは電子機器を中心とする既存の機器を改造して、機能を向上させたり、その機器に本来なかった機能を生みだしたりする実践をハードウェア・ハッキングと呼んでいる。一方、ニコラス・コリンズは電子工学の専門知識を前提としないDIY電子工作をハードウェア・ハッキングと呼ぶ。両者の定義には共通点も相違点もあるが、ここでは現代芸術をより参照する後者を詳述する。 コリンズの『Handmade Electronic Music──手作り電子機器から生まれる音と音楽』(元になったテキストのタイトルは『ハードウェア・ハッキング』)はこの実践の手法を紹介しながら、60年代以降の実験音楽やヴィデオ・アートにおけるハードウェア・ハッキングの歴史についても概説している。その流れをたどると、60年代にデヴィッド・チュードア、ゴードン・ムンマといった実験音楽家が始めた実践をきっかけに、70年代にはコンポーザーズ・インサイド・エレクトロニクスという電子工作を手がける作曲家の集団が形成された。80年代には安価なシンセサイザーやコンピュータの登場でいったん下火になるが、90年代になるとリード・ガザラがサーキット・ベンディングの手法を提唱するなど、デジタル・メディアに対するカウンターとして再度注目を集めた。コリンズがハードウェア・ハッキングの文化的性格として強調するのは、電子音楽における作曲家と技術者の分離の解消や、デジタル化によって減退した直接性と接触性の回復などである。

補足情報

参考文献

『ハードウェアハッキング大作戦』,スコット・フラム(エディックス訳),オライリー・ジャパン,2004
『Handmade Electronic Music 手作り電子機器から生まれる音と音楽』,ニコラス・コリンズ(久保田晃弘監訳、船田巧訳),オライリー・ジャパン,2013