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表現主義(建築)

Expressionismus(独), Expressionism(英)
更新日
2024年03月11日

第一次世界大戦終結の頃に、ヨーロッパに起こったデザイン流派のひとつ。同時期に起こったデ・ステイル(近代の技術革新をベースにした幾何学的・抽象主義的なデザイン流派)とは対照的に、主観的・有機的なデザインを基調とする。表現主義が内包する代表的なグループは、ベルリンを中心としたドイツ語圏で見られたドイツ表現主義、およびオランダのアムステルダムを中心としたアムステルダム派である。ドイツ表現主義の作品には、ガラスやコンクリートといった素材のもつイメージや性質を生かした造形が多い。ブルーノ・タウトの《ガラス・パヴィリオン》(1914)や「アルプス建築」計画案(1919)、ミース・ファン・デル・ローエの「ガラスの摩天楼」案(1921)、エーリヒ・メンデルゾーンの《アインシュタイン塔》(1919-21)などが代表作として挙げられる。また、アムステルダム派はレンガ造による曲線の造形が特徴的である。一方、建築史家の藤森照信によると、日本の表現派は、大正9年の堀口捨己、山田守らによる分離派結成を機に隆盛した。堀口捨己の《平和記念東京博覧会の塔》(1921)や《紫烟荘》(1926)、岩本禄の《西陣電話局》(1922)、吉田鉄郎の《山田郵便局電話分室》(1923)、山田守の《東京中央電信局》(1927)、石本喜久治の《朝日新聞社》(1927)などが挙げられる。しかし、1920年代末には表現主義が姿を消し、ワルター・グロピウス、ミース・ファン・デル・ローエ、ル・コルビュジエらが先導するインターナショナル・スタイルが世界的に普及した。

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参考文献

『日本の近代建築(下) 大正・昭和篇』,藤森照信,岩波書店,1993
『カラー版 西洋建築様式史』,熊倉洋介、末長航、羽生修二ほか,美術出版社,1995
『表現主義』,鈴木貴宇編,ゆまに書房,2007