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ヒーリングの五段階

The Five Stages of Healing
更新日
2024年03月11日

癌患者となった経験から舞踊家アンナ・ハルプリンが発案した癒しのプロセスであり、作品創作において振付の構造をなすもの。(1)同定(identification): 語られるべき論点や主題を明確にする。(2)向き合い(confrontation): 主題から連想される感情やイメージを身体を用いて実演し具体化する。(3)解放(release): 身体的、感情的、心理的な解放を果たす。(4)変化(change): 起きたことを統合したり、ある状態から別の状態へと変容させたり、自分を知覚し「世界内存在」を知覚する新しいやり方を構成したりする。(5)同化(assimilation): 得た知識や経験を日常生活に適用する。以上の癒しのプロセスには、1972年に癌と診断された際に、ドローイングを描きダンスを踊ることによって自らを癒したハルプリンの経験が反映されている。ハルプリンはこの構造を《サークル・ジ・アース 線の上で人生とともに踊る》(1989、1991)の作品創作で用いた。この作品では、パフォーマーにHIV、エイズ、癌、慢性疲労症の患者が含まれており、恐れ、孤独、偏見を癒すことがこのプログラム遂行の目的とされた。癒しの旅のクライマックスと位置づけられていたのがワークショップを経た後のパフォーマンスだった。ダンスを癒しの芸術と捉え、実践する可能性がこうしたハルプリンの試みによって開かれたと言える。娘であるダリア・ハルプリンはこのプロセスを「5区分のプロセス(The Five-Part Process)」と呼び、明晰な理論化を行なっている。なお、リュディ・ガーバー監督の『Breath Made Visible』(2009)には、ハルプリンが癌にかかった際に行なったパフォーマンスの一部と「サークル・ジ・アース」の一部が収められている。

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補足情報

参考文献

Anna Halprin,Libby Worth and Helen Poynor,Routledge,2004
The Expressive Body in Life,Art,and Therapy: Working With Movement,Metaphor,and Meaning,Daria Halprin,Jessica Kingsley Publishers,2003