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ビオトープ

Biotope
更新日
2024年03月11日

生物の生息環境のこと。ギリシャ語の「bios(生)」と「topos(場)」の合成から生まれたドイツ語の単語「Biotop」に由来し、英語でも「biotope」という同系統の単語が広く用いられている。生物学における「ビオトープ」の概念は、動物地理学者フリードリヒ・ダールの論文「生物群集研究の諸原則と基本概念」(1908)および著書『生態学的動物地理学の基礎』(1921/23)に由来する(「ビオトープ」概念がドイツの生物学者E・ヘッケルの『有機体の一般形態学』[1866]に起源を有するという説が一般に流布しているが、これは2008年の佐藤恵子[東海大学教授、生物学史]の論文によって否定されている)。多くの動植物が共存する複雑な環境の総体を指すのがいわゆる「生態系(ecosystem)」だとすれば、「ビオトープ」とはある生物が持続的に生息できる最小単位に相当するものであると言えよう。ここから転じて、現在では自然にあらかじめ存在する種々の生物の生息環境のみならず、人工的に作られた生物環境もしばしば同じく「ビオトープ」と呼ばれる。とりわけ20世紀後半に顕著になった環境保全に対する意識の高まりによって、ビオトープは狭義の「生物の生息環境」という意味を遥かに越えて、ホタルやトンボの生息環境の保護や回復を訴える環境倫理および市民運動へと広がっている。また、「生物が持続的に生息可能な環境」というビオトープの拡張的な用例は、人間の経験や行動様式を周囲環境との関わりにおいて考察するメディア研究やアフォーダンス研究にしばしば見られるものでもある。

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参考文献

『ビオトープの形態学 環境の物理的構造』,杉山恵一,朝倉書店,1995
『ビオトープの構造 ハビタット・エコロジー入門』,杉山恵一、福留脩文編,朝倉書店,1999
『メディア・ビオトープ メディアの生態系をデザインする』,水越伸,紀伊國屋書店,2005
『総合教育センター紀要』,「「ビオトープ」はヘッケルの造語ではない! ヘッケルとダールの原典に基づく「ビオトープ」という言葉の由来についての検討」,佐藤恵子,東海大学総合教育センター,2008