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風景

Landscape(英), Paysage(仏)
更新日
2024年03月11日

環境の眺め。Landscape/Paysageは「風景」「風景画」を同時に意味する。実態的な風景は環境の形態、主体と客体の関係性としてつねに遍在する。人間の知覚により現象する風景は、個人的記憶や集合的イメージも構成要素となるため、風景への関心のあり方は時代的偏差をもつ。A・ベルクは風景概念の出現を西欧における近代の主体の出現と相関関係にあり、ジャンルとしての風景画(物理的眺めに関する自然の芸術的表象)の登場はルネサンス以降であることを指摘した。近代における風景表現が急激な都市化や生活環境の変化と無縁でないことは、産業革命を経験した英国におけるJ・ラスキンやW・モリスのロマン主義的な自然景、生活景への関心や、風景画を19世紀の主要な芸術創造としたK・クラークの活動に表われている。このことは、志賀重昂の『日本風景論』が自然景への礼賛とナショナリズムを喚起しながら、近世の名所絵に見られる生活景への市民の関心を弱体化させた状況と同時代性をもつ。1970年代の大量消費社会に対する見直しと環境志向は、ランドアートや環境彫刻の登場や、国内で中村良夫、樋口忠彦ら景観工学者が風景学を構想し一般書を上梓した状況と通じるだろう。21世紀においては廃墟や自然災害映像へのメディア的関心もまた時代の風景の現われではないだろうか。

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参考文献

『日本風景論』,志賀重昂,岩波文庫,1994
『風景画論』,ケネス・クラーク(佐々木英也訳),ちくま学芸文庫,2007
『風景学入門』,中村良夫,中公新書,1982
『日本の風景・西欧の景観 そして造景の時代』,オーギュスタン・ベルク(篠田勝英訳),講談社新書,1990
『日本の景観 ふるさとの原型』,樋口忠彦,ちくま学芸文庫,1993