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不確定性

Indeterminacy
更新日
2024年03月11日

1950年代よりジョン・ケージに代表される実験音楽家が中心となって実践された、演奏や聴取において音が意図的に作曲家や演奏家のコントロールから外れていくようにつくられた楽曲が、不確定性の作品と呼ばれる。ケージが50年代初頭に「チャンス・オペレーション」の手法を導入して以降、実験音楽家たちはいわゆる「偶然性の音楽」のヴァリエーションを探求した。音楽学者、庄野進はそのヴァリエーションを作曲家─楽譜─演奏家─音響─鑑賞者という音楽実践の連鎖のどれに偶然が関わるかに応じて整理している。チャンス・オペレーションの作品は作曲家─楽譜の連鎖のみに偶然が関わる。それに対して、不確定性の作品は以降の連鎖に偶然が関わるのである。ケージの不確定性の作品には例えば、演奏者がコントロールできない音源を使用するもの(ラジオが音源の《イマジナリー・ランドスケープ第4番》[1951]など)、演奏者が楽譜を自由に組み立てるもの(《フォンタナ・ミックス》[1958]など)、鑑賞者が自由に歩きまわりながら聴く作品(《HPSCHD》[1969]など)がある。これらの不確定性の作品では音の展開を予想することができない。また、演奏ごとに音の展開が変わり、二度と同じような展開にならない。「不確定性」とはこうした特徴を指している。ケージにとってこのような特徴こそが、彼が音楽活動を通じて到達しようとした自然の作動方式の特徴だった。60年代後半以降の実験音楽では特に演奏者─音響に関わる偶然に関心が集まり、その結果偶然性の強い音源の開発(D・チュードア《レインフォレスト》[1968]など)や、演奏ごとに異なる展開を生みだすインストラクションの考案(C・カーデュー《大学》[1968-71]など)といった方向に展開していくことになる。

補足情報

参考文献

『サイレンス』,ジョン・ケージ(柿沼敏江訳),水声社,1996
『ジョン・ケージ 小鳥たちのために』,ジョン・ケージ、ダニエル・シャルル(青山マミ訳),青土社,1982
『実験音楽 ケージとその後』,マイケル・ナイマン(椎名亮輔訳),水声社,1992
『聴取の詩学 J・ケージからそしてJ・ケージへ』,庄野進,勁草書房,1991
『ジョン・ケージ 混沌ではなくアナーキー』,白石美雪,武蔵野美術大学出版局,2009