不信の宙づり
- Suspension of Disbelief
- 更新日
- 2024年03月11日
イギリスの詩人で批評家のサミュエル・テイラー・コールリッジが『文学評伝』(1817)の第14章で用いた「不信の自発的停止(willing suspension of disbelief)」という言葉に由来するもので、演劇や小説に描かれたフィクションのなかの「真実」を観客や読者が一時的に受け入れること。コールリッジは詩を語る際、想像力によって生まれた超自然的あるいはロマン的な登場人物に対して読者が一時的に喜んで不信を宙づりにするように詩人は工夫をしなければならないとした。こうした事情は、舞台演劇や映画においても該当すると考えられる。目の前の俳優の振る舞いが本当に起きたことではないにもかかわらず、それを嘘と疑うことなくむしろ真実の出来事のように演技という嘘に没頭するのは、観客が一時的な不信の宙づりを自発的に行なうからである。フィクションをフィクション(嘘)と知りながらリアルなもの(真らしいもの)として受けとる不信の宙づりは、リアリズムあるいはイリュージョニズムの成立する基本的条件とみなされた。
補足情報
参考文献
『文学評伝』,サミュエル・テイラー・コールリッジ(桂田利吉訳),法政大学出版局,1976(原著1817)