ポスト・ペインタリー・アブストラクション
- Post-Painterly Abstraction
- 更新日
- 2024年03月11日
クレメント・グリーンバーグが、抽象表現主義以後の新しい動向を概観するために使用した語、またはグリーンバーグが企画した同名の展覧会(ロサンジェルス・カウンティ美術館、1964)のこと。「絵画的(ペインタリー)」とは、美術史家・ハインリヒ・ヴェルフリンが主著『美術史の基礎概念』(1915)でルネサンスとバロックの様式的分類を行なうために使用した二項対立のひとつであり、ルネサンスの「線的」様式と対をなすものとして使われた「マーレリッシュ(malerisch)」の英訳に倣ったものである。ヴェルフリンによる「絵画的」様式とは、色彩と輪郭線がぼかされたバロック芸術の不明瞭な画面の特色を表わすものであったが、グリーンバーグはそのカテゴリーが、M・ロスコ、B・ニューマン、C・スティルなどの色面抽象=絵画的抽象に適応しうるものと考えた。グリーンバーグは、展覧会に出品された絵画的抽象「以後」の31名の画家たちの作品には、明暗の対比に依らない純粋な色彩による開放性と視覚的な明瞭さが備わっていると定義する。また、フラットな色面と薄塗りを基調としたそれらの絵画においては「絵具の厚塗り」や「身振り」への反動が見られると指摘した。そこに、絵画を「アクション」の提示とするローゼンバーグ的な抽象表現主義観への明らかな敵対が見られる。
補足情報
参考文献
『美術史の基礎概念 近世美術における様式発展の問題』,ハインリヒ・ヴェルフリン(海津忠雄訳),慶應義塾大学出版会,2000
『グリーンバーグ批評選集』,クレメント・グリーンバーグ(藤枝晃雄編訳),勁草書房,2005