Artwords®

『無産階級の画家 ゲオルゲ・グロッス』柳瀬正夢

Musan Kaikyu no Gaka, George Grosz, Masamu Yanase
更新日
2024年03月11日

画家・漫画家の柳瀬正夢が、ドイツ表現主義の画家・風刺漫画家ジョージ・グロスについて論じた本。グロスの挿絵も多数収録している。1929年、鉄塔書院から刊行された。柳瀬はグロスの評伝を述べつつも、グロスの作品が持つ古い小市民的な部分の残滓を批判し、より積極的な階級闘争と社会建設への願望を語った。後に音楽評論家となる若き日の山根銀二は、この頃柳瀬と親しくしており、ドイツ語文献の読解を手伝った。グロスはドイツにおいても英語風に「ジョージ・グロス」と名乗っていたが、当時の日本ではドイツ語風に「ゲオルゲ・グロッス」と呼ばれ、20年代を通じて左翼的な志向を持つ美術家・漫画家たちの間で流行していた。一方で、当時比較的保守的な位置にいた漫画家の岡本一平は、美術雑誌『AS』(1925年11月)にてグロスを「共産主義者ではなく変態性欲画家」と批判したことがある。また、グロスの表現は、会員制猥雑誌『変態・資料』など当時のエロ・グロ・ナンセンスの潮流においても愛好され、グロスの本国ドイツで発禁となった画集『エッケ・ホモ』(1924)が日本でも極秘に売買されていた。

著者

補足情報

参考文献

「20世紀最大の風刺画家 ジョージ・グロス ベルリン・ニューヨーク」展カタログ,神奈川県立近代美術館ほか,朝日新聞社,2000