無対象芸術
- Беспредметное искусство(露), Non Objective Art(英)
- 更新日
- 2024年03月11日
描写対象のない抽象画(非形象絵画)および造形芸術のこと。20世紀初頭にドイツとロシアにおいて、リアリズムおよび自然主義への批判として展開された。色彩、フォルム、ヴォリューム、質感、コンポジションなど絵画そのものの要素やそれらの組み合わせを前景化させた自己充足的な絵画といえる。理論と実践の双方から絶対的な絵画システムとしてのシュプレマティズムを提唱したカジミール・マレーヴィチ、絵画の特定の形式が観る者に与える感覚「内的必然性」を探求したワシリー・カンディンスキー、絵画を構成する素材に注目したウラジーミル・タトリンが、ロシアにおける無対象絵画の中心的役割を果たし、ロシア・アヴァンギャルドの画家たちの大部分がそれぞれのアプローチで無対象の課題に取り組んだ。1912年、画家のダヴィド・ブルリュークは論文 「キュビスム(表面―平面)」のなかで、絵画の自己目的性がキュビスムにおいて開花したことを主張したが、これが無対象を論理的に意義づけた最初の主張とみなすことができる。無対象絵画の主要な展覧会として、マレーヴィチのシュプレマティズム絵画とタトリンの《コーナー・カウンター・レリーフ》が同時に出展された15年の「最後の未来派絵画展 0. 10」と、ワルワーラ・ステパーノワ、リュボーフ・ポポーワ、アレクサンドル・ロトチェンコ、オーリガ・ローザノワら9人の画家たちの作品計220点が展示された19年の第10回国営展「無対象的創造とシュプレマティズム」展が挙げられる。
補足情報
参考文献
『ロシア・アヴァンギャルド』,亀山郁夫,岩波新書,1996
『夢見る権利 ロシア・アヴァンギャルド再考』,桑野隆,東京大学出版会,1996
『ロシア・アヴァンギャルド 未完の芸術革命』,水野忠夫,PARCO出版,1985
『ロシア・アヴァンギャルド 1910-1930』,ステファニー・バロン、モーリス・タックマン編(五十殿利治訳),リブロポート,1982
『ロシア・アヴァンギャルド芸術 理論と批評 1902-34年』,J・E・ボウルト編(川端香男里訳),岩波書店,1988