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ムーヴマン

Mouvement(仏)
更新日
2024年03月11日

主に絵画や彫刻における動勢や動きを指し、面や筆触、色彩等の処理による表現に動勢がある場合と、モチーフとなる人物や風景に動勢がある場合とに分けられる。絵画においては画面内に描かれた線、面、形、色彩、肌理といった絵画の形式的要素の構成や配置によって、鑑賞者の視線を心理的に誘導させる方法を意味する。なお、面の移動による二次元的なムーヴマン以外にも、静的な面の重なりにより生成する三次元的ムーヴマンや、立体的な量の空間構成による前景から奥への後退と奥から画面への復帰を示す円環的ムーヴマンなどがある。特に立体的な空間の奥行きによるムーヴマンは、遠近法や明暗法に従属することなく、空間の動勢が確保されうると、ポール・セザンヌの画面構成に関する手法の分析を『セザンヌの構図』(1943)で行なった画家アール・ローランは指摘している。なお、絵画や彫刻におけるムーヴマンについては、それら造形芸術が物質的条件により瞬間の表現に限定されるがゆえに、その「含蓄のある瞬間」において造形芸術と文学といった言語芸術を弁別し、18世紀のドイツを中心にヨアン・ヨアヒム・ヴィンケルマンと「ラオコオン論争」を起こしたゴットホルト・エフライム・レッシングが挙げられる。また、そのような時間の問題は、一方で1909年のミラノでマリネッティらによる未来派では機械的な速度が重視され、継起的時間の動勢の表現が絵画や彫刻の主題となった。

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参考文献

『セザンヌの構図』,アール・ローラン(内田園生訳),美術出版社,1972