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『眼の神殿 「美術」受容史ノート』北澤憲昭

Me no Sinden, Noriaki Kitazawa
更新日
2024年03月11日

日本近代美術史を、単なる作品史ではなく、概念や施設の制度の歴史として捉え返し、幅広い領域に衝撃を与えた本。美術評論家の北澤憲昭による最初の著書であり、初版は1989年に美術出版社から刊行された。本書は、高橋由一の「螺旋展画閣」構想を切り口に、日本語の「美術」という言葉が1872年につくられた官製訳語であったこと、「日本画」が明治期に新しく創出されたものであることなどを通して、私たちがいま普通に思う「美術」が普遍的な存在ではないことを解き明かす。それは、単なる歴史研究という以上に、1980年代末の美術シーンにおいて、「美術」を当然のものとみなし「もの派」から「絵画」「彫刻」へ安易に回帰しようとする動向を厳しく批判する言説としても書かれた。本書が提示した制度論という考え方は、96年の佐藤道信の『〈日本美術〉誕生』によって国民国家論的な観点からも論じられ、この二冊はその後の美術史・建築史研究の全般に影響を与えた。また、90年代以降、椹木野衣や村上隆などによって、「日本」をテーマにする美術評論や制作における理論的な支柱としても参照され、日本現代美術を考えるうえでも欠かせない書物となっている。

著者

補足情報

参考文献

『眼の神殿 「美術」受容史ノート』,北澤憲昭,ブリュッケ,2010
『美術八十年史』,森口多里,美術出版社,1954
『日本近代美術論争史』,中村義一,求龍堂,1981
『日本・現代・美術』,椹木野衣,美術出版社,1998
『〈日本美術〉誕生 近代日本の「ことば」と戦略』,佐藤道信,講談社選書メチエ,1996