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モビール

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更新日
2024年03月11日

重力や空気抵抗といった自然現象や、モーターのような機械仕掛けによって動く彫刻作品を指す。美術作品としてのモビールは、A・カルダーに起源を見出すことができる。カルダーは機械工学の学位を取得後、自動車技師や製図工などを経て、ニューヨークのアート・ステューデンツ・リーグで学んだ。1926年にパリへアトリエを移すと、針金で作られた曲芸師や芸人や動物の人形による「サーカス」を上演し、美術関係者に好評を得る。その後カルダーは、モーターや手動で動く作品を、床に置く、天井に吊るす、壁に掛けるといった複数のタイプで多数制作するが、それらの作品は31年にM・デュシャンの助言によってフランス語で「動き」と「動因」に関係する「モビール」と命名された。
「サーカス」は当初、玩具として制作されたが、針金という素材に対する認識を彫刻の素材にまで拡張したことや、30年にP・モンドリアンのアトリエを訪問したことを機に具象から幾何学的なフォルムを備える抽象形態へと変化し、より作品の動的な構造が強調されていったことが、美術作品として受容されるようになった要因として挙げられる。なお、カルダーの作品には自立し動かない彫刻作品もあるが、こちらは「スタビル」(J・アルプの命名による)として、モビールとは分けて理解される。モビールがそれまでの彫刻と決定的に異なる点に、作品の構造自体に動きや時間が導入されたことが挙げられる。60年代以降にはJ・ティンゲリーの機械式の作品に代表される「キネティック・アート」の動向が顕著となり、一方ではそれらは公共空間に設置されるパブリック・アートとしても社会に認知されていった。

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補足情報

参考文献

「アレクサンダー・カルダー」展カタログ,社団法人国際芸術文化振興会,2000
「カルダーの世界」展カタログ、,読売新聞社、西武美術館、現代彫刻センター編,読売新聞社,1979