唯物論
- Materialism
- 更新日
- 2024年03月11日
自然や物質、身体を世界が構成されるうえで根源的なものとみなし、そのような物質を最高原理とする認識論上の思想。非物質的なものである心や精神を究極のものとする唯心論(観念論)は、唯物論の対概念である。この唯物論と唯心論の思想的対立は古代まで遡り、唯物論的な思想はタレスやデモクリトスらの古代ギリシャ哲学に認められる。中世に入り、反宗教、無心論的な唯物論に対するキリスト教の権威的な抑圧が強まるものの、17世紀末のG・ライプニッツの著作物のなかに「唯物論」の呼称が見られるなど、唯物論は近代になって再発見されることになる。近代の唯物論の発展は、自然科学の発達との関連をもつが、より密接な関係をもつものとして、精神を自然科学における力学的な法則や仮説を用いて解明しようとする機械論的唯物論が挙げられる。また、機械論的唯物論の実験的性質に対立する弁証法的唯物論は、物質の弁証法的な運動を重視する歴史的性質を備え、マルクス主義の経済理論と強い相関性をもつ。日本では、明治中期以後に「唯物論」の訳語が定着したとされ、唯心論と唯物論が対概念として理解されたのも、同様に明治以降である。そのような唯心論/唯物論の対概念は、国内では1960年代以降、西洋近代の自己批判的な思想に影響を受けた作家の作品に少なからず見られる。特に、作家の観念による像の対象化作業としての制作行為を否定し、石などの自然物の直裁的な提示を主張した李禹煥ら「もの派」の作品は、作者の制作行為と素材としての物質との関係を考察するうえで、重要な問題を提示していると言える。
補足情報
参考文献
『新版・出会いを求めて 現代美術の始源』,李禹煥,美術出版社,2000