Artwords®

リアリズム

Realism
更新日
2024年03月11日

〈現実〉の現象を直感し、理想化を避けてそれを表出することに価値を置く表現のこと。イリュージョニズムを発生させるためのさまざまな装置を駆使して外観を再現―表象する西洋絵画の、いわゆる「自然主義」とは別のものである。だが、現代的な風俗や、伝統的な主題性を欠いた対象を描いたクールベやミレーの「写実主義」は、自然主義とリアリズムとの複雑な交錯を示すものであり、自然主義とリアリズムの接近は、20世紀初頭のシュルレアリスムにも見られる。とはいえ、ほとんどすべての近現代美術は、いかにして現実(あるいは現実を構成する諸原理)を明示しうるのかという問題を、多様な関心から追究してきたといえる。シュルレアリスムのほかにも、新即物主義、社会主義リアリズム、ヌーヴォー・レアリスム、ドキュメンタリー芸術、具体などの名称に示されているように、そうした運動に共有される〈現実〉は多様な様式の発露を見るものであり、そもそも対象とされる〈現実〉が、内感に基づくものなのか、それとも客体を志向するものなのか、あるいはその両者の超克を目指すものなのか、といったさまざまな問題設定によって大きな振り幅を持たざるをえない。ゆえに、現象や自然に内在する潜勢力の可視化を目指したクレーや、芸術家の「主題」を重視した抽象表現主義の絵画形式もまた、いかに抽象的に見えようとも、それぞれのリアリズムを基盤とするのである。

著者

補足情報

参考文献

『芸術と幻影:絵画的表現の心理学的研究』,E.H.ゴンブリッチ(瀬戸慶久訳),岩崎美術社,1979
『棒馬考 : イメージの読解』,E.H.ゴンブリッチ(二見史郎ほか訳),勁草書房,1994
『イメージと目』,E.H.ゴンブリッチ(白石和也訳),玉川大学出版部,1991
『ルネサンス様式の四段階:1400年-1700年における文学・美術の変貌』,イリー・サイファー(河村錠一郎訳),河出書房新社,1987
『絵画と社会』,ピエール・フランカステル(大島清次訳),岩崎美術社,1968
『新板 クレーの日記』,パウル・クレー、W・ケルステン編(高橋文子訳),みすず書房,2009
Courbet’s realism,Michael Fried,University of Chicago Press,1990