インタビュー1:水戸芸術館現代美術センター学芸員 竹久侑さん

今回は水戸芸術館大友良英「アンサンブルズ2010―共振」のキュレーションを担当した竹久侑さんに話を聞きました。

竹久さんは大学卒業後、写真家のプロダクションマネージメントの仕事を経て、ロンドン大学ゴールドスミスカレッジでキュレーションを学び、2007年から水戸芸術館現代美術センターの学芸員を務められています。

ぼくが水戸芸術館で初めてデザインをさせてもらったのは竹久さんが2010年に企画した「リフレクション―映像が見せる“もうひとつの世界”」展で、今回のアンサンブルズ展は竹久さんとの2回目の仕事でした。

インタビューでは、竹久さんが考える美術/美術館をめぐる現状認識の話、街を舞台にした市民との共同プロジェクトの実践を中心にまとめました。

今回のプロジェクトでは、展示の他にも街中でパレードを行ったり、館の外のイベントも盛りだくさんでしたね。館外での活動を竹久さんはどう位置づけていますか?

私が水戸芸術館で働き始めたのは2007年なのですが、ここへ来てまず驚いたのは、目と鼻の先なのに一度も芸術館に来たことがない水戸市民の方がいるということでした。こんなに近い場所にあって面白い企画が行われているはずなのになぜ?という思いがありました。

多くの人が美術館に訪れるようになったら美術のさまざまな可能性を美術館から発することができますよね。でも残念ながら、私の認識では日本の美術館はまだまだその段階までたどり着いていないんです。館内の展覧会はもちろんですが、今はこちらが外に出向いてもっと美術の多様性や可能性を提示していく段階だと思っているんです。

例えば欧米では普通に沢山の人が美術館に行きますよね。小さい頃から美術や音楽など文化的なものに慣れ親しんでいる。しかも美術館の中では座り込んでスケッチを描いている子どもがいたりとか、意見を交わし合いながら観ている人がいたりするんです。日本での美術館での鑑賞者の振る舞いとはかなり違う。日本では美術に対して「静かに観て考えるもの」とか「難しくてよくわからない」というイメージがまだまだ残っています。それだけではない、もっと幅広い美術の可能性をさまざまなプロジェクトや展示を行って伝えることができればと思っています。

館外での何か具体的なプロジェクトはありますか?

私が水戸芸術館で最初に関わった館外の企画は「カフェ・イン・水戸2008」という街中に作品を展示するグループ展でした。2002年から3回行われてきましたが、あまり美術を観る人びとのすそ野が拡がった実感が私にはなかったんです(笑)。そこで、3回目のときにMeToo推進室というボランティアの市民団体が発足しました。街なかで展示をするだけではなくて、地元の人びとと共同で企画を運営していける体制を作った方が良いんじゃないかという思いがあったのでしょう。

でも、その協働体制というのはなかなか難しくて、協働とはいえ初めはすでに決められた方向性の上でともに運営をしていくような位置づけだったんですよね。でもそれだけだったら普段自らいろいろなイベントを企画しているような人にとってはそれほど面白くないじゃないですか。

主催側とボランティアスタッフとの間にヒエラルキーができてしまう?

そうですね。私は対等な関係性のなかで一緒にプロジェクトをすることに興味があったので、2年目にはMeTooのメンバーになりました。これは、みんなが楽しみながら自主的にそれぞれの得意分野を活かしたりやってみたいことにチャレンジしたりして、プロジェクトを行っていくという試みなんですよ。

その後、MeTooの企画で、大友良英さんを交えてライブとワークショップを街中で行うようなイベントができないかという企画が持ち上がり、そこから2009年のアンサンブルズ・パレードが生まれています。

私が大友さんと一緒に街なかでプロジェクトをさせていただきたかった理由は、街頭でイベントをやるからといって決して「街の活性化」などを目的にしていないからなんですよね。大友さんはご自身の音楽性の追求の過程で、ライブハウスやコンサートホールから外に出ていく流れが自然に生まれている。しかも、街に出るからといってご本人が追求される音楽の質を落とさない。そういった大友さんのスタイルに私はとても共感したんです。美術や音楽のためにつくられたスペースから外に出つつも、きっちりクオリティを保った活動をすることはそれほど容易なことではないですよ。

あと、街中で美術を展開させるということでは、作品を外に置いたりするような「場所」の話ではなくて、どうやって人の中に残せるのかということを考えています。いろんな人がかかわることができるプラットホームを作って、関わった人たちが自分なりの何かをつかむのが一番いい。そういう意味では今回の大友さんとの協働プロジェクトには、手ごたえを感じています。

「人の中に残る」ということで言えば、今回の展示でもいろんな風な感じ方とか聞き方をするわけですよね。そういうことをすくい上げるのはかなり難しくないですか。

それが! twitterのおかげでいろんな感想が聞こえてくるようになりましたね。アンケートとかより絶対有効ですよ。今回はツイート数も多くとても参考になりました。

ブロガー:加藤賢策
2011年1月28日 / 08:49

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