Go North-East! ①タノタイガ氏の場合

東日本を大地震と大津波が襲いかかり、福島第一原発の事故が発生したその直後から、アーティストや芸術に関わる多くの人々が「芸術にできることは何か」を自問したり、呟いたりしたはずです。その一方で、あの悲惨な状況を目の当たりにして、アーティストや芸術の無力さを痛感した人もいたと思います。
もしかしたら芸術の力で、アーティストの力で、被災地を元気にすることができるかもしれない、いやいや、今アーティストが行ってもかえって迷惑になるだけだろう。そんな思いが頭の中をぐるぐる駆け巡ったのは、きっと、わたしだけではないでしょう。

そんなときに、美術家のタノタイガさんのブログで「タノンティア」(アーティストのタノタイガとともに石巻など津波の被災地で瓦礫撤去作業に参加するボランティア)を知りました。以下、4月3日のエントリーから一部を紹介させていただきます。

震災直後、僕は瞬間的に「アーティストとして何ができるか」を考えました。
作品を売ってその収益を、と自分も考えたし誘いも来ました。
でも僕はそれを選べませんでした。
なぜならそれは今すぐではなくても良いと考えたからです。
(中略)
引き籠もってアーティストとして何ができるか、なんて悩みは汚泥を掬い続けていると吹っ飛びます。マッスもパースも垂直も水平も素材感も全てを失ったこの惨状は、有名な作品では得られないことがあるでしょう。アーティストとして何ができるかはもう少しあとでも大丈夫です。

タノさんはブログの中で、アーティストの中ザワヒデキさんからもらったメールでの「芸術家としてではなく市民として」という言葉に共感されたことや、その後、タノさんの呼び掛けにアーティストの仲間がタノンティアに参加している様子などもブログで伝えられています。そして、タノさん自身がタノンティアを「アーティスト活動として行っているものではありません」(5月11日付のエントリー)と明言されています。
が、私は、タノさんのこれまでのアーティスト活動や作品の中に、タノンティアと共通する何かを感じます。この上なく悲惨で深刻な状況の中で、自作の歌を唄い、自作のキャラクターグッズを制作し、土嚢の積み上げ方にも美しさと機能を追求し、お得意のタノンティアポーズで被災者とボランティアの仲間と記念撮影。
そこには、現実を直視しながら笑い、笑いの向こう側により深い現実が透けて見えるような印象を受けます。そして、せんだいメディアテークや数多くのアーティスト仲間が、タノさんの活動に共感し、協力していることは、それがアーティストとしての活動ではなかったとしても、アーティストであるタノタイガでなければ、決して立ち上がらないものでしょう。

3.11後、あるアーティストは、こうして東北に向けて動き、また、あるアーティストは、南西に向かって動いています。こうしたアーティストの動きを、Go North-East / Go South-Westと題して、引き続き紹介していきたいと思います。

ブロガー:大澤寅雄
2011年6月13日 / 01:53

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