Design For The Mundane World

こんにちは、水野です。

今回は、プロダクトデザイナーの中坊壮介さんと立ち上げたデザインプロジェクト・Design For The Mundane Worldについてお話できたらと思います。ファッションにおける歴史や社会性などともおおいに関連するプロジェクトですが、どんな内容なのかについてちょっとお話したいと思います。

MUNDANE = ありきたりの / 平凡な / 現世の

という意味のタイトルがついているこのプロジェクトですが、ヴィクター ・パパネック『Design For The Real World(生きのびるためのデザイン)』をもじって生み出されました。そして、「Super Normal」という展覧会が深澤直人さんとジャスパー・モリソンの二人によって以前に開催されましたが、これにも影響を受けています。さらに、震災が起きて私たちは今、デザインで何ができるのかを考えています。山崎亮さんらが行ったプロジェクト「震災のためにデザインは何が可能か」などにもあるように、それは極めて包括的なデザインです。

そこで、重要になるのは非常時のためのデザインの仕組みやモノをどうデザインするかを考える前に、「mundane」な仕組みやモノはどうデザインされてきたのかを考えてきただろうか?という事を視野に入れることもまた重要であろうということです。

以前、ロボットクリエイターの高橋智隆さんが指摘されていた点があります。高橋さんはパナソニックの電池を背負って綱上がりをしたりする小さなロボや、女性の歩き方を模倣したロボなど、面白いロボをたくさん開発されています。そんな高橋さんが、介護用ロボットなどの開発が進んでいるが、彼にしてみれば車のデザインも出来ていないのにいきなり救急車をデザインするようなもので、「あせりすぎ」ではないか、というのです。

緊急用や非常用など、「非日常的状態を改善する」ための一連のデザインの目的が、復興が進むにつれて「日常を取り戻す」ことをより強く訴求することになった時、そもそも日本におけるmundane worldとはどのようにデザインされてきたのかを考えることは意外にも見過ごされてきたのではないか。

mundane なデザインの解釈もまた幅広いものです。そこで、日本各地で今WSを開催し、どのようにmundane なデザインは成立しているのかを多くの人と考えていきたいと思っています。

mundane なデザインは製造工程、素材、流通に至るまで包括的によく出来ている事が大切である一方で、デザインの歴史、倫理、慣習など、製造の上位概念としての様々な要因もそこに入り込んでいきます。

もちろんファッションも一緒です。例えば、スーツ。

アン・ホランダー『性とスーツ』にもありますが、男性のスーツはその「近代化」を終えて、基本的な形は200年くらい同じです。極めて明確に体系化されたそのモノには、ちょっと間違えば「スーツ」っぽくないデザインになってしまう。

軍ものの服にも、歴史的な痕跡が多く見られます。ピーコートやトレンチコートなどの衣服のディテールも今やフォリーとなりましたが、それらには機能性が元々ありました。その記号性の操作もちょっと間違えば「それ」っぽくないデザインになります。

「それ」っぽくすることとは、ファッションの歴史の中で生成された一連のコード的なモノを援用して、安定したデザインを生み出すことへと繋がります。つまり、人がある服を認識して、着ようと思わせるにはとても大切な要素だったりするのです。

以前にも「素材がちょっと違うから、学生服と認められない」学生が、卒業式に参加させてもらえないというニュースがありました。バカげているようにも思えるのですが、私たちの生活の中にはそうやって「当たり前」なものとして存在する一連のデザインのコードが存在しているわけです。

フレドリック・ジェイムソンが「○○っぽさ」について、ポストモダン的見地から書いている文章が和訳されて成実弘至編「問いかけるファッション」に載っていますので詳しく知りたい方はぜひ。

とにかく、ただ効率よく作ればよいというものでもない。それなら、ジーンズのリベットやポケット、縫い方のディテールももっと簡素化されるはずです。歴史的に「普通」なものがどうやって「普通」になったのか、その経緯を知らずにやみくもにデザインしても、実際の利用へと繋がらなければデザイナーの独りよがりになってしまうのではないか。この意味において、デザインの考現学、あるいはエスノグラフィのような調査から、デザインの実践まで、包括的な視座にたってmundane なデザインを再評価していくことができたらと思っています。

来年にはebookとして刊行したいと思っていますのでお楽しみに。

みみみ

ブロガー:水野大二郎
2011年6月21日 / 13:03

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