新しい価値、こんにちわ。

かねてから計画していた通り、農園に研修に行き始めました。まだ3日しか行っていませんが、デザイナーとしてたくさんのことを感じます。

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有機・無農薬栽培の農園。4人ぐらいの社員と3人ぐらいの研修生とニワトリとノラネコ、そしてヤギがいるところに研修に行き始めました。デザインから農業へ。全く異分野への転換のため、いろいろな脳内革命が起こっている毎日です。

農業のようなごまかしの利かないものと比べると、デザインの仕事はある意味「詐欺」とも言えるでしょう。なぜなら本質的には何もないものでも、デザインによってさも中身があるように見せることができるからです。

一番典型的なものはペットボトルなどの飲料。化学薬品を調合してそれっぽく作ったジュースでも、パッケージで包むことによって健康的なイメージに作り変えることができます。試しにペットボトルのジュースを買ったら、飲む前にラベルを剥がしてみてください。得体のしれない、色のついた液体がそこにはあるだけです。「誰が」「どんな方法で」「どんな思いで」それを作ったのか。それらが全く分からない、鮮やかな色の液体。果たしてそれを飲みたいと思うでしょうか。

でも本来、私達が店頭で手にしているものは本来そんなものなのです。それをデザインで包むことによって、飲みたいという衝動を与え、安心を与え、おいしいと思わせているに過ぎません。

これは詐欺です。本来持っている化学薬品などの負の側面を隠し、いいところだけを誇張する。本質がなければないほどデザインとのギャップが大きくなり、「大袈裟」なデザインになります。逆に、本来持っているものが本当によいものであり、誇張する必要がないものであればデザインなんていらないのではないか--。ずっとそう不快感を覚えながら誇張をするデザインの仕事をしていました。

しかし、その考え方は間違っていました。

この農園では、自分たちで作った無農薬の野菜を使ってジャムなどの加工品を作り、生鮮野菜と並べて店頭で売ったり宅配ボックスなどに入れたりしています。私がデザインの仕事をしているのを知ると、当然ながら「ラベルを作ってくれないかしら」と言われます。

無農薬です。一生懸命作っています。おいしいです。化学薬品で作られたジュースと違ってこんなにもしっかりとした本質がある。誇張する必要なんてありません。これまでだったら迷うことなく単純でシンプルなデザインを提案していたでしょう。

しかしそれでは納得しない自分がいました。農作業を手伝ううち、いつの間にかデザイナーから生産者になっていたのです。

農作業をしたり一緒に農園で御飯を食べたりすると実にいろんな話をします。戦後こんな食の環境にしてしまった現実に責任を感じ、次の世代に自分の学んできたことを少しでも伝えたいと頑張っている師匠の話、19年前に閉鎖的な農村社会に県外から飛び込み、村八分のような扱いを受けながらも必死で頑張ってきた社長の苦労話、そして無農薬でやることの難しさ、自然や自分との葛藤。

デザインでこの本質が伝わるかといえば、伝わりません。きっとこれは生産者にならないと分からない思いです。もちろん雰囲気やイメージはデザインで伝えられます。さらに文字などリーフレットをつければストーリーも伝わるでしょう。でもそんな手法の話ではなく、何をやっても伝わらないものは伝わらないんです。ここにきて、作っている人の心に触れない限り。一緒に作業をしない限り。

だから、私は嘘をついてもいいと思いました。価値が100あっても実際に伝わるのは30、よく言っても50ぐらい。この差分を誇大な表現、ウソで埋めて100に近づくのなら評価されないよりは全然マシ--きっとそれは正当な評価ではないでしょう。でも、売れずに利益があがらなければ廃業してしまいます。それに、買ってさえもらえれば、食べてさえもらえれば、きっと100の価値に近づくと信じて作っています。そして何より「食の安心」を届け「おいしい」と思ってもらうことのためにやっているからです。

つまり、私はデザイナーとして売ること、利益をあげることにしか目がいっていなかったのでしょう。生産者の本当の思いや切迫した財政状況などまでは頭がまわっていなかったのです。大量生産・大量消費のデザインばかりしてきたせいかもしれません。

するともうひとつのモヤモヤしたものが湧いてきます。「ブランド」です。これは100の価値を100以上にする力をも持っています。この力はまさに今「付加価値」と呼ばれ、農業全体としてここに踏み込むことが必要と言われています。

ブランドは私にとっては得意分野。どうせ嘘をつくなら、「ブランド」という最上級の嘘をつけばいいと思うのですが、なぜか今一歩踏み出せないのです。

…ここから先の話、実はまだ自分の心の整理がついていないので今回はこのへんにしてまとまったところでまた書いてみたいと思います。

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ブロガー:加藤潤一
2011年11月2日 / 15:12

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