さて、ひょんなことから始まったこのプロジェクト。とにかく向かってみないと分からないだろうという事で昨年の5月にパリに飛んだ。
訪問した際に驚いたのは、日本と違って建築に関する施設の層の厚さ。まず、パリには国立の建築博物館(正確には建築歴史博物館)CITÉ DE L’ARCHITECTURE ET DU PATRIMOINE(以下Cite)という巨大なシャイヨー宮の東翼側を占める施設が存在し、実物大、そして本物の建築に接しながらロマネスクから、現在に至る建築文化の歴史を体験する事ができる。それだけでなく近代以降の建築や都市の紹介も行ない、その時々で現代の建築に焦点を当てた企画展を行なっている。とにかく広いので、複数のプログラムが同時に行なわれているが、私が訪れた時もまだ使われていないスペースが残っていた。Citeに加え、前回のポンピドゥーセンターも国立の施設でありながら建築コレクションを有しており、常設展示などで建築模型や図面をみることができる。
次にパリ市が運営しているPavillion de’Arsenal(以下Arsenal)というのがある。運河沿いの建築をリノベーションしたArsenalは、建築単体よりもパリ市における都市と建築の関係に焦点が当てられている。都市が建築によってつくられているという単純な事実とともに、建築家が建築と都市の双方に関わりながらパリという都市が変化しているということを強く思わせられる施設になっている。
そしてLa Maison de l’architecture en Île-de-Franceという教会をリノベーションした非常に美しい施設は、il de franceつまり県単位で設置されている建築施設。こちらも展示スペース、もと礼拝堂だったレクチャーホールを持ち、中庭で食事もいただく事ができる。
民間の施設としてはLa Galerie d’Architectureがパリ中心部のマレ地区近辺に存在している。ここはいわゆる建築ギャラリーで、若手建築家を中心に模型や映像などで表現している。どのように運営しているのか(作品の販売なのか?レンタルなのか?それとも別の出版などでなのか?)が気になっている。上記の他に、大学の展示スペース、できたばかりのアートセンターなどの会場候補を訪問した。
また、パリ在住の日本人建築家へのパリの建築事務所事情ヒアリングを実施。設計事務所は多いようだが、お互い交流が盛んな訳ではなさそうで、フランスの若手建築家についてたずねてもあまり情報がでてこないのが以外に思えた。先程述べたように、建築関係の施設は非常に充実しているにもかかわらず。ひとつには、イベントごとが多すぎて拡散してしまっているのではということ、パリを拠点としつつもEUや海外での仕事がメインの事務所の多いこと、と同時に国内の建築メディアの弱さということが関係しているのではないだろうか。
ともかく、この時のリサーチをもとに、第1候補をCIteに企画書の作成を開始した。しかしその直後にどうやらポンピドゥーセンターの日本建築展が延期になるという情報が入ってきた。これまで、ある種のカウンターパートとして歴史的なパースペクティブにたいして現在形の建築のかたちを伝えるという事を目指してきたのだが、その前提が足下から揺らぐという事態がおこってしまった。
<続く>