放課後アートリサーチ 04: 極地建築家 村上祐資《秘密基地ヲ作ロウ。》その2

こんにちは、臼井です。「放課後アートリサーチ」、今回で4回目。前回に引き続き、極地建築家 村上祐資さんが展開するワークショップ《秘密基地ヲ作ロウ。》について。今回は活動の内容そのものよりも、活動が置かれている社会的な文脈について書いてみようと思います。

放課後活動の充実?縮小? ──「放課後子ども教室」

非常階段に、上の階からつりさげて基地を設置する。村上さんをはじめ、大人たちも試行錯誤。

非常階段に、上の階からつりさげて基地を設置する。村上さんをはじめ、大人たちも悪戦苦闘。

学校から帰ってランドセルを置いて、すぐさま家を飛び出していく。土をほじくったり、木に登ったり、なんだかやばい穴の中に入っていったり、放課後は冒険にあふれています。しかし、登下校時に子どもが巻き込まれる事件・事故や、池田小の事件などをきっかけに、犯罪へのセーフティネットは強固になっていきました。子ども用ケータイにGPSや防犯ブザーなど、グッズも充実しています。こうして子どもたちの生活がどんどん管理・制限されていく中で、遊びの質も変わっていると言われています。

そんな中で「校庭開放」をバージョンアップし子どもたちが遊ぶ場所・時間・仲間を確保する「放課後子どもプラン」が文部科学省から提唱されました。この《秘密基地ヲ作ロウ。》が実施された豊島区の「豊島子どもプラン」もその一環で行われています。各小学校に地域のお父さんお母さんを中心にボランティア・チームがつくられ、校庭での子どもの遊びをサポートしたり、餅つきや太鼓教室などのイベントをしたりしています。こうした行事に加えて、子どもを危険から守るだけでなく、村上さんの取り組みのようにゴールがわからない「ワークショップ」が介入していることに、ぼくは大きな可能性を感じます。

ワークショップのオープン・ソース──活動の普及のために

子どもを育てるのにプロもアマもなくて、現にこうして地域住民も教育に参加しなきゃならないフレームができている。いかにリスクから子どもを遠ざけるか、という考え方になりがちですが、放課後に子どもと遊ばなきゃいけないんだったら、大人も楽しめたほうがいいでしょう。《秘密基地ヲ作ロウ。》はそんな楽しみたい大人のために、誰もが企画を実施できる「オープンソース」[★1]を目指しています。

「オープンソース」とは、ある物の使い方/作り方が企業秘密として隠されるのではなく、その方法やコードが開示されていて、誰でも活用できるものにする、という考え方です。《秘密基地ヲ作ロウ。》の場合、方法を開示するだけでなく、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス[★2]をつけることで、ワークショップの質を落とさない工夫も検討されています。実際には全国で実施されている「放課後子ども教室」のためのボランティア組織をはじめ、ワークショップのソースを活用できるスキルを持った「コミュニティ」を育んでいくことからは普及ははじまっていきます。ワークショップがオープンソースとして幅広く活用される仕組みをつくるのには、長い時間がかかるはず。

わからないことを共有する──教育のリスクの分散

当たり前のことですが、教育は「よく生きる」方法を教えるものです。その「よく生きる」とはどういうことなのか実は誰にもわかってないのですが、現状ではこういう風なのがいいらしい、ということで、受験に備え、就職に備える教育がなされています。「先生」という職業は、相手に「よく生きる」方法を伝えるという大きなリスクを背負っています。でも、そのリスクは先生一人には背負いきれないほど膨張したものになっていないでしょうか。答えが無いものに対してより多くの答えを考える。先生はそのうちの一つの答を持った人で、その他の多様な回答をする人として「放課後子ども教室」で企画を担う人や子ども向けのワークショップを考える人達がいるはずなのです。

しかし、「ワークショップ」もまた多くのものは大人が用意した意図を伝えることに終始しがちです。そんな中で《秘密基地ヲ作ロウ。》のとあるグループでは、大人も率先してわからないことに挑む様子にぼくはとても好感を持ちました。大人はわかってる、子どもはわかっていないという分類はなく、大人も子どもたちとわからないことを分かち合いながら、秘密基地をつくっていく。南極でサバイバルをしてきた村上さんでさえ、次はどうしよう、と悩んでいました。その悩んでいる様子を子どもも見ています。授業を受ける、という意識でその場にいたら、どうしたらいいか指示してよ!と不満を持つでしょうが、この場では次どうするかを一緒に決めていたし、子どもからも提案が出ていました。

教育が何かの喜びを与える機会だとしたら、大人に褒められて安心する喜びから、たとえ褒められなくても未知のものに飛び込んでいく喜びへと転換していくことに希望があります。《秘密基地ヲ作ロウ。》のように「わからないものに挑む方法」がオープンソースになっていくことに、これからの「放課後」の姿を予感しました。

★1──オープンソース(http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AA%A1%BC%A5%D7%A5%F3%A5%BD%A1%BC%A5%B9
★2──クリエイティブ・コモンズ(http://creativecommons.jp/

ブロガー:臼井隆志
2012年1月31日 / 19:05

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