こんにちは、臼井です。ブログの更新も7回目。もう残すところあと一ヶ月を切りました。ペースはスローですが、取材をして記事を書いてと楽しくやらせていただいています。さて、今回は劇作家岸井大輔さんが東京都江戸川区で実施していたプロジェクト
《東京の条件2011:準備室》の一環である《こどもkichi》について。
「ごっこ遊び」から実践へ
《こどもkichi》は、路上や民家など都市のあらゆる場所で演劇作品をつくりだす劇作家岸井大輔さんが、江戸川橋の地蔵通り商店街の一角にある古い家屋を使って2011年10月~2012年1月まで展開していたプロジェクトです。「子どものたまり場をつくる」という主題のもとに動き出した《東京の条件2011:準備室》という枠組みの中で、参加者と共に実験的に行った企画でした。
ぼくが《こどもkichi》を訪れたのはその取り壊しが始まる前日、最後の日でした。商店街の角にある古い家屋の軒先にはカラフルな画用紙に描かれた自己紹介ポスターが並んでいて、中に入ってみると風船やフェルトのフラッグ、ペンキで塗られた壁に写真が並び、奥には子どもたちが作ったのであろう「駄菓子屋」があります。2階に上がると、奥の部屋で子どもたちが駄菓子のカップ麺にお湯を注いぎはじめました。最後の日の「打ち上げ」なのだとか。
※子どもkichiのレギュラーのわたさんと話す筆者も映っています。
空色に塗られた部屋では一人の子が「かみどめ屋」をやっていたり、薄暗い部屋では「この家で起きた殺人事件」についてのお話をしてくれる女子がいたり、10数人の子どもたちがこの場所を遊び場にしています。とはいえ、フェルトのフラッグや壁の絵などは不思議なほどクオリティが高い。本当に子どもが始めたのか?というと必ずしもそういう訳ではなく、この場所をつくり出した岸井大輔さんらのチームがアーティストに声をかけ、子どもたちの遊びを「演出」している部分もあります。しかし、駄菓子は実際に売られているし、「かみどめ」や「殺人事件の話」も10~20円払う仕組みになっている。これらは子どもたちの提案を受けて岸井さんが「うん、やりたいならやれば?」と了承したことではじまった企画だそうです。この場所でアーティストが何かをしていると子どもたちがその周りで別のことが動き出していきます。
「劇作家」という肩書きでこのプロジェクトを展開する岸井さん。「ここで行われていることはフィクションです」という言い逃れもできそうな肩書きですが、ここで子どもたちがやっていることは「商い」であり、小さくても経済活動であると言えるでしょう。演劇も他者に価値や機会を与えその対価を受け取る経済活動。子どもたちが「ごっこ遊び」を存分にできる場所を与えているように見えて、「遊び」の境界をあやふやにし、経済活動と接続する試みでもあると感じました。
純粋な消費であるはずの「遊び」が開かれ、「実践」へと変わっていく過程。こうして見ていると、これまでとは違う「公共事業」の形が浮かび上がってきます。
つづく。