鴻池朋子の身体は東日本大震災以降、地球の振動を新たな画材と感じ、旅をしては野外の技法を習得し、時に土木工事や縫いものをメディアに「絵」を描いてきました。
昨年より東北でスタートした《メディシン・インフラ (薬の道) 》は、鴻池が各地を巡り、縁のあった場所に自作を展示保管してもらう長期的なプロジェクトで、その活動は福島、岩手、北海道へと少しずつ広がってきています。現在も能登半島地震の被災地の仮設住宅に設置されるカーテン作品を制作中ですが、その住宅も大切な場の一つとなることでしょう。
今回、移動する動物のごとき鴻池から「地図帳やランドマーク」の役目を託された青森県立美術館。そこには新作や現地レポートを通じて、観客に鴻池の軌跡をリレーする充実した中継ぎ役が求められているようです。
「作家やアーティストのようにメッセージや問いを投げかけるのではなく、後はもう自分の体しかない、というギリギリのところまで連れだしたい」と語る鴻池。観客の体がその場に晒された時、アートが人間の本能的なものに向けて、豊かに染み渡るメディシン (薬草) のように機能していくのではないでしょうか。[美術館サイトより]