開発はそのキャリアの最初期となる1990年代より、日常生活や社会現象など身の回りの出来事への関心を起点に、コミュニケーションを内包、誘発する表現活動を継続してきました。
その形態は、絵画、写真、パフォーマンス、インスタレーションの制作のみならず、日々のライフワーク、学校や地域でのワークショップ、毎年3月9日をアートの記念日とする「39(サンキュー)アートの日」の発案・提唱など多岐にわたります。その中でも継続的に行っているプロジェクトでは、開発の活動の背景にある哲学を垣間見ることができます。自分や友達に書いた手紙が1年後に届く《未来郵便局》、「誰もが先生・誰もが生徒」を合言葉に授業が行われる《100人先生》、地下スタジオに様々なゲストを招く《モグラTV》は、郵便、教育、マスメディアといった既存のフォーマットを模しながらも、メッセージの発信者と受け手の間に等価の関係があることを示唆します。府中市の学校から始めたワークショップ「ドラゴンチェアー」では、こどもたちが、他人におもねることなく自己表現した椅子を数十メートルにも連ね、ドラゴンを出現させました。2011年には作家仲間や友人たちとともに、阪神淡路大震災で被災した西日本から東日本大震災と福島第一原発事故の被災地まで義援金を集め移動するチャリティー展覧会「デイリリーアートサーカス」(2011、2012、2013、2014)を実施しました。...
このように社会構造や制度、共同体、出来事への個人的な介入という身振りは、開発の実践の大きな特徴の一つとなり、その姿を故・池田修氏(元BankART代表)は「ひとり民主主義」と呼びました。一人(ひとり)と、皆の参加を前提とする民主主義という言葉は一見相反するように思えるかもしれません。しかし一致団結した運動体ではないからこそ、個々がお互いに反応(リアクション)することができ、それが連鎖的に人々を巻き込むことで活動(アクション)が生まれていくのです。そこに開発の表現の醍醐味があるといえるでしょう。...
本展では、日々の出来事や社会の変化に生身で向き合ってきた開発の作品・プロジェクトから約50点を紹介し、「ひとり民主主義」の世界に来場者を歓迎します。[美術館サイトより]