かつて海だったここは、台地となり、山となり、谷を作った。
私は何層にも積み重なった、時の記憶の上に立っている。

生きるもののように、暖かかったり冷たかったりする岩を触る。
触れた岩は、私が生まれる前から、そして死んだ後も変わらず、
この山の上に、雲より上にあるのだろう。

年輪のように時が刻まれなくても、岩に張り付いている苔が、
きっと毎日を覚えているだろう。

見上げれば、稜線がすぐそこにある谷で、沢の始まりを見つけた。
岩から滴る一滴が、谷に集まり大きな流れを作る。
山が雨を蓄え、地中を潜って絞り出す一滴だ。

その一滴は、沢を伝って人間たちの生きるところへと流れていく。
風が谷から沢の音を連れてくる。
かつて海だったここを思い出させるように、波のような音を。