ロンドンを拠点に活動する現代美術家、川久保ジョイ(1979年、スペイン生まれ)は写真、映像、インスタレーションといった多岐に渡る実践を展開し、2014年頃からは、原子力発電所および原子力技術の利用に関する考察を巡る、フィールドリサーチを含めた一連の作品を発表してきました。本展では、川久保のこれまでの制作、および新作を含む作品群が、丸木美術館の大小の展示室と屋外の空間に展開されます。副題の一部である「45憶年の庭」とは、正に地球の年齢であり、そこから連想される人知を超えた時間軸が、本展を読み解くひとつのキーワードとなっています。
2011年の福島第一原発の事故以来、川久保は当地へ赴き、土の中にネガフィルムを埋め、ある一定の時間を置いた後、掘り返す、という実験を行ってきました。第一展示室に設置された10枚のポラロイドは、彼の繰り返したテストの一部であり、芸術的実践を通じて福島の大地に関与し続けた彼のコミットメントの記録でもあります。新作の映像作品《Slow Violencello》(2024年)は、青森県の六ケ所村を中心に撮影されました。...
本展の開催に際し、川久保と親交の深いオーストラリア人作家ガブリエラ・ハース氏によって、《アトム・ボム・ローズ》というバラの品種が日本に持ち込まれ、挿し木で増やす試みが行われます。象徴性と示唆に富むこの行為は、しかしながら、罪悪感などみじんもなく、ただ成長を続ける植物に対し、善と悪という二項対立的構造を投影させ、一体何が正しく、何が正しくないといえるのか、といった第二の疑問を呈するようです。Left is Right ― 右と左は、西欧圏では、しばし正誤、あるいは善悪の象徴としても用いられる言葉です。英語ではさらに「right」は「真っ直ぐ」や「権利」を意味し、「left」は「残された」や「去った」という意味も持ちます。「Left is Right」とは一体何を意味するのでしょうか?本展タイトルに込められた川久保の哲学は、展示室内の作品群と多層的に響き合いながら、鑑賞者に問いかけ、その検証を求め、深く訴えかけています。[美術館サイトより]