和歌山県新宮市に生まれた佐藤春夫(1892〜1964)は、明治から昭和にかけて、詩や小説の創作を中心に、文学の世界で大きな足跡を残しました。同時に春夫は、「二十のころの希望は文学と美術との二つに分かれていた」と回想しており、その若き日に抱いた美術へのあこがれを、生涯持ち続けることになります。
昨年度、当館は春夫が所蔵していた美術作品、61件148点の寄贈を受けました。本展はそれを記念し、春夫ゆかりの美術作品を多くの方にご覧いただく機会として開催します。...
自著の装幀や挿画は美術家と共同で仕事をする機会を生み出し、それが若い美術家の支援にもつながりました。なかでも大正から昭和の戦前期にかけて、木版画で特異な幻想の世界を描き出した谷中安規(たになか・やすのり)とは特別な交流が生まれ、春夫の手元には多くの作品が残されました。本展では詩情あふれる木版画を手がけた川上澄生の作品、また里見弴、武者小路実篤とシリーズを分け合ったゴヤの連作版画集〈ロス・カプリーチョス〉など、春夫が愛蔵した版画も数多くご紹介します。[美術館サイトより]