”絵を描くとき、私は触れることのできないものを探している-乱舞する光、移動する空気、嵐の前の静けさ、など。この探究のさなかで、思いがけないものを見つけた。すなわち「香り」である”

ー クレマン・ドゥニ

クレマン・ドゥニが探究してきた光・動性・記憶の痕跡をとどめた一連の作品を巡る旅-今展はこのように位置づけられよう。絵画と目に見えないものとの-そこでは、各々のカンヴァスが個人的な、特別な一枚となる。最終形としての絵画は、ドゥニのプロジェクト『風を描く』(調香師のウゴ・シャロンとのコラボレーションで製造されたフレグランスを絵画の一部に塗布)の本質を伝える。香りは風がそよぐようにたゆたい、言葉やイメージが捉えられないものを捉える。

展示される作品-『Oiseaux laissés pour trace (痕跡のための鳥)』などの現行シリーズから『Chroniques temporelle de Vétheuil I(ヴェトゥイユの儚い年代記 I)』といった大作に至るまで-は、この探究のものである。これらは、作家が「捉えられないもの」を掴もうとし、自然の律動に耳を澄まし、それを色彩とカタチに落とし込もうとした軌跡である。

ホワイトストーンギャラリー銀座新館の展示では、絵画が光と出会うところ、目に見えないものを触知できる静かな探索へとご来廊の皆様をいざないます。ひとつひとつの筆致や息遣いを通して、そこに光を感じて頂けることを願って。