森本加弥乃展-Timeless time-を開催いたします。

●作家コメント
Timeless time
箱を開けると、生まれた時からの過去写真が山のようにある。
それらは乾いて反り返り、色を失ってぼけたり茶色くなったりしている。なんの整理もされないまま、開けられることのない箱の中でただ静かに乱雑に何十年も重なりあっていた。デジタルデータの時代以降は、それはますます古びて奥深くに隠され、遠くに忘れ去られていた。
私は捨てられないが、他者には何の価値もないものである。私がいなくなったら、誰かが開けもせずに箱ごと処分するだろう。そんなことを考えながら、ある日、改めてそれらの写真を取り出して、じっくり見るということを行ってみた。
すると、そのごみ山のような紙の写真が、私にどれだけのさまざまな感情や思いを呼び起こすことかに大変に驚かされた。あの時のあの場所、あの時のあの人、あの時の空気。あの時の音、言葉。それらはまるで今も目の前にあるかのように思えて、胸が締め付けられるようだった。しかし、時間は過ぎた。もうこの場所はない、あの人とは会えない。これとの関係は変わってしまった。まったくこの世にいない人たちの姿と思いを確かめる方法はない。そこに記録されている空気も音も今とは違う。時間はこんなにも速く、そして「一度きり」の法則で過ぎ去っていくものなのかと感じた。
しかし、ほんとうにそこに写るすべて、そしてその時間は過ぎ去ってなくなってしまったのだろうか。私の感情や記憶にはあるのだとしよう。では、その感情や記憶をもつ私がいなくなったら、その時こそ消えてしまうのだろうか。
そうではないのではないかと私は思う。もしかしたら、時はすべて紡がれてひとつの方向に向かっていき、今のわたしたちには知ることのできないどこかへつながっているのではないか。そのつながった先では世界は私たちの内側にあり、私たちはその外側にあるのではないか。だとすれば、今日という日も永遠に失われることはない。そしていつも何を選択しどこへ向かうのかを問われていることになる。では、誰から問われているだろうか。時が紡がれていく一つの方向の向こうから問われているのだ。