松は雪中にも青々として徳を示すとともに、めでたい画題として、親しまれてきました。松は日本に自生しており、古くから親しまれてきた樹木です。しかし、造形や文芸の題材として取り上げられるにあたっては、中国の大きな影響を受けています。
 中国では紀元前十六世紀以前の夏王朝の時代から、松に特別な意味を持たせており、春秋時代(前八世紀〜前五世紀)に生きた孔子は『論語』の中で、厳しい寒さに耐える松を、逆境に屈することのないたとえとしています。唐時代(七世紀〜十世紀)には松そのものが絵画の主題となり、繁栄や長寿を祝う吉祥としての松も造形されるようになりました。このような意味を持つ松が奈良時代、平安時代の日本に伝わり、絵画や文様に取り入れられることになります。北宋時代(十世紀〜十二世紀)に水墨山水画が盛んになると、日本でも松に様々な精神性を託す文人画が描かれるようになります。中国の影響を色濃く受けた松が描かれる一方で、松に対する日本独自の信仰や物語に由来する造形も生み出され、発展していきます。
 本展では、室町時代から江戸時代にかけてつくられた、さまざまな松の絵画と工芸品をご覧いただきます。めでたい松を鑑賞しながら、西宮市の市制100 周年をともに祝っていただければ幸いです。

(1)山水画 理想郷、桃源郷
文人画に描かれた理想の場所 桃源郷である蓬莱山図
(2)実在の松
富士山、松島、須磨、高砂、住吉、大坂名所 ほか
(3)松が主題
松が主題として描かれた画 雪松、老松、若松 ほか
(4)松とさまざまな取り合わせ
動物(鶴、亀、鷹、虎、鹿、猿 ほか)、植物(梅、竹 ほか)、その他(旭日、月)
(5)物語に描かれた松
中国故事、伏見常盤、住吉明神図、高砂図 ほか