大原美術館は1930年に我が国初の西洋美術館として誕生し、まもなく創立100年を迎えます。長い歳月の間に、収蔵品は多岐に拡充され、いまや国内屈指の美術館として広く親しまれています。
しかしその始まりは100点に満たない西洋の絵画と彫刻でした。いずれも洋画家、児島虎次郎が単身でヨーロッパに渡り、現地で買い付けたもので、購入にあたっては、倉敷紡績株式会社二代目社長、大原孫三郎の資金的援助がありました。「日本の人々に本物を見せたい」――若き二人のこの思いが、やがて大原美術館の設立につながります。しかし児島虎次郎は、「夢」の実現を目にしないまま、1929年に世を去ります。
本展は、2025年春に児島虎次郎記念館が開館し、児島への関心がいっそう高まる中、創立100年を目前にした大原美術館の改修工事にともなう休館により、「これぞ名品!」というにふさわしい作品を館外で展示することが可能となった貴重な機会となります。エル・グレコ《受胎告知》、ポール・ゴーギャン《かぐわしき大地》、クロード・モネ《睡蓮》など、ベルギーから始まる児島虎次郎の足取りを辿りながら、さまざまな名画を尋ね歩く旅にも似たひとときを、どうぞごゆっくりお楽しみください。