ミヅマアートギャラリーでは10月29日(水)より、O JUN展「花がみえたり、TVがみえたり、コップがみえたりしました」を開催いたします。
2019年の個展「途中の造物」以降、コロナ禍を挟みながらも40以上の個展、グループ展に参加し、そのたびに新作を発表してきたO JUN。最近は「ゴジラ・THE・アート展」(森アーツセンターギャラリー)への参加でも注目を集めています。

O JUNは今年の2月から4月にかけて、“原寸大”の車を三枚のキャンバスを組んだ横長の画面に油彩で描きました。制作のために借りた川口の工場まで定期券を買って通い、荒めの麻地キャンバスを前に刷毛を用いて格闘しながら、冬から春へと移り変わる季節とともに、描き終えました。
《暗黒ドライブ》と名付けられた本作は、車が好きだった画家の友人との思い出に由来します。この数年の間、O JUNは同じモチーフ、タイトルで三度制作をしてきました。今回は縮尺ではなく原寸大で描くことで、絵画の既存の枠組みを超えながらも、なお絵として成立するかどうかを試み、これまでにない絵画作品に挑みました。車の周りを彩るカラフルな円もまた、近年O JUNが取り組んできたアプローチであり、現在のO JUNを象徴する作品と言えるでしょう。

本展ではこの大作を中心に、80年代や90年代の作品、今回シリーズを締め括るという《山の人生》(2010年―)の新作や同じく長年描き続けている《水金地火木》など、O JUNのこれまでと現在地を行き来するような作品群を展示いたします。様々な時代の作品を点在させ、40年以上にわたるO JUNの作家活動を浮かび上がらせます。また、来場者と一緒に撮影をする「不記念写真」と称するパフォーマンスも会期中随時予定されています。

展覧会タイトルは、1998年に発表した42点の紙作品とドローイングブックで構成された《花・TV・コップ》に付随する同名小説の一節から採られました。O JUN自身の思い出や記憶が反映されたというこの小説は、少年の山登りの一日を描きつつも、山道からも、道理からも大きく逸れた会話や出来事によって展開します。O JUNはこの小説について次のように明かしています。
「限りある事象や風景の中に入っていくことで程よい距離が無化され、それを忘れて等身の自分や対象を見つける。少年が山の中に入って苦しさのあまりにいろいろ見てしまう」 そして今は、当時と同じ地点ではなく、少しズレたところに戻ったといいます。

本展にあわせ、写真家の久家靖秀氏によるO JUNの活動を記録した写真集『O-SAN』も刊行いたします。
来年は古希を迎えるO JUNの前祝いとなる本展をぜひご高覧いただき、一緒にお祝いいただけましたら幸いです。