古今東西、人は身近な人間や、歴史上の人物、信仰の対象となる神仏などの姿をさまざまに表してきました。「伝神写照(でんしんしゃしょう)」とは、4~5世紀中国の肖像画の名手・顧愷之(こがいし)が述べた言葉で、描かれる対象をその本質まで活き活きと写し表すことを指します。古くから肖像表現に深い関心をもっていた中国では、儒教・仏教・道教などの信仰にまつわる尊像、有名な歴史人物の姿やその逸話などが絵画化されました。それらを鑑賞することで、人々は祈りをささげ、悠久の歴史を知り、古今の人物を顕彰し、わが身を正す鑑(かがみ)としたのです。これら中国で育まれた人物表現と物語は、絵画工芸のみならず漢籍や経典などを通して、長い歴史の中で朝鮮半島や日本、琉球など近隣の国々にも伝わり、それぞれの文化的・歴史的風土のもと、独特の趣をもつ作品が生み出されました。

本展観では、大和文華館が所蔵する中国、朝鮮半島、日本、琉球の書画漢籍42件を通して、東アジアで展開した多彩な人物表現と、それにまつわる物語をご紹介します。