フォーカス
人々の記憶と復興の願いをこめて。
梁瀬薫
2011年10月01日号
9.11同時多発テロから10年。グランド・ゼロの追悼施設の一部がようやく一般に公開されることとなった。崩壊した貿易センタービル跡地の南と北の棟があったところに、正方形の巨大な池が完成した。アース・ワークを思わせるこの記念碑は2004年の公募で5,000件以上のプロポーザルから選ばれたマイケル・アラドによるデザインだ。池を囲む壁には93年の爆破事件の犠牲者も合わせた2,983人の名前が刻み込まれた。深く掘られた池に滝のように流れる水は、消えない悲しみを讃え、鎮魂の祈りの場となった。
今年はニューヨークの美術館や画廊でも9.11に関するさまざまな美術展が開催された。テロによる惨事そのものや、「失われた10年」とされる9.11を境にしてアメリカが抱えてきた政治への批判、戦争、不況などを訴えるというアートではなく、むしろ人々の記憶を追うような作品や崩壊から復興への課程、人の絆をテーマにしたコンセプチュアルな作品が印象に残った。
9.11の記憶
Remembering 9/11
2011年9月9日〜2012年1月8日
International Center of Photography
http://www.icp.org/
ナショナル・セプテンバー・イレブン・メモリアル・ミュージアムとの協力で組織された「9.11の記憶」展は、5人の作家により異なる表現方法で、それぞれのコンセプトが提示された。いずれも惨事の記録だけではなく、10年を振り返り、全米から駆けつけたボランティア、警官、消防士、建設作業員、アーティスト、などなど現場に関わる人々やニューヨーカーたちが乗り越えてきた姿を記憶として映しだした。
フランセスク・トレスの大規模なビデオ・インスタレーション《記憶は残る:ハンガー17の遺物》は他の写真や映像と異なり、破壊された貿易ビルの残骸や車、トラック、ビルの一部など現場から集められた「物」だけに目を向けた作品だ。変わり果てたさまざまな産物のそれぞれが多くを物語る。また、アマチュアやプロから寄せられたグランド・ゼロに関連する写真のチャリティーのプロジェクト「ヒア・イズ・ニューヨーク:写真における民主主義」から抜粋された作品のインスタレーションが一部屋を使って披露され、今なお続く喪失感と悲しみを訴えていた。ほかにユージン・リチャードの写真《灰の中を歩き抜けて》、イレーナ・デルリヴェロとレスリー・マックリーブのグランド・ゼロの瓦礫撤去の作業の様子を記録した映像作品、グレッグ・ブラウンの写真《グランド・ゼロの上で》は、タイトルが示すように、復興への希望が伝わる作品だ。