フォーカス

人々の記憶と復興の願いをこめて。

梁瀬薫

2011年10月01日号

セプテンバー・イレブン

September 11
2011年9月11日〜2012年1月9日
MOMA PS1
http://ps1.org/

 これまでのテロによる惨事の歴史において、ニューヨーク世界貿易センタービル崩壊の映像ほどポピュラーなイメージはないと言えるだろう。PS1で開催されている「セプテンバー・イレブン」展はあえて、惨事の奧に潜む人間の感情や心理に訴えるような作品を、41人の現代美術作家による、およそ70点の展示によって提示した。「セプテンバー・イレブン」とは現代社会に、何をもたらし、どう影響したのか。展示されているほとんどの作品は直接9.11に関与して制作したものではない。例えばジョージ・シーガル1998年の彫刻作品《公園のベンチに座る女性》。明らかにニューヨーク市の公園にあるベンチに腰掛ける女性像である。何ら変哲もない日常の風景がこの展覧会では極めて深い意味をもたらしているのである。さらに、シーガルの作品の前に設置されたイギリス人作家ロジャー・ヒオンズによる灰を思わせる砂の作品は、今にも純粋無垢な白い女性を襲うかのような恐怖感を与える。ありふれた日常がいかに大切であるかということ、災害でさえ世界を変えてしまうという事実をこの展示空間は啓示している。参加者はほかに、唯一9.11をモチーフにしたエルズワース・ケリーのコラージュ、精神障害者を撮影し続け、自らの命を絶ったダイアン・アーバス、ヨーコ・オノとジョン・レノン、クリスト、フェリックス・ゴンザレス・トーレスなど。また常設展のジェームス・タレルの《ミーティング・ルーム》は今展では格別に癒しの空間を与えていた。


George Segal. Woman on a Park Bench. 1998.
Bronze with white patina, and metal bench
53 x 72 x 36 inches (134.6 x 182.8 x 91.4 cm).
Courtesy the George and Helen Segal Foundation and Carroll Janis.
© 2011 George and Helen Segal Foundation / licensed by VAGA, NY


William Eggleston. Untitled (Glass in Airplane), from The Los Alamos Portfolio. 1965-74.
Dye-transfer print. 20 x 16 inches (50.8 x 40.64 cm).
Collection Jonathan Sobel and Marcia Dunn, New York.
© Eggleston Artistic Trust; courtesy Cheim & Read, New York


Mary Lucier. Dawn Burn (detail). 1975.
Seven monitors of increasing sizes from 15 to 25 inches diagonal; slide projector mounted on wall; seven-channel video converted from ½-inch, open-reel tape to DigiBeta and DVD (black and white, silent); one color slide (34:00 min., continuous). Structure: 7’3”-8’ 2” x 20’ (approx.) x 20”-27”.
San Francisco Museum of Modern Art. Accessions Committee Fund: gift of Doris and Donald Fisher, Marion E. Greene, Evelyn and Walter Haas Jr., and Leanne B. Roberts.
© 2011 Mary Lucier


Thomas Hirschhorn. Mondrian Altar. 1997. Mixed mediums. Dimensions variable. Installation view: Centre Genevois de Gravure Contemporaine, Geneva, 1997. Collection Greene Naftali, New York.
© 2011 Thomas Hirschhorn; courtesy Greene Naftali, New York, and Gladstone Gallery, New York


Jane Freilicher
Dark Afternoon, 2001
Oil on linen

落ち葉:匿名による追悼

Falling Leaves: An Anonymous Memorial
2011年9月13日〜9月24日
Paula Cooper Gallery
http://paulacoopergallery.com/

 「2001年9月11日」への答えとしてブルース・コナーが制作したシリーズ作品《落ち葉:匿名による追悼》は、日本の伝統的な掛け軸に、シンプルな葉のシルエットがコラージュされた作品だ。ニューヨーク市内各地で開催された、9.11関連のイベント中、最も抽象的で、スピリチュアルな作品だった。コナーは1950年代からアッサンブラージュや映像で知られるアメリカ人作家で2008年に他界している。コナーはこの作品シリーズで静かに散る葉により、人間のはかない命を深く表現している。

そのほか、9.11関連の注目展

The 9/11 Peace Story Quilt

会期:2011年8月30日〜2012年1月22日
会場:Metropolitan Museum Of Art
   1000 Fifth Avenue, New York, NY 10028
詳細:http://www.metmuseum.org/exhibitions/listings/2011/the%20911%20peace%20story%20quilt

 キルト作家フェイス・リンゴールドと8歳から11歳までの子どもたちとのコラボによる作品。

ある男の予期せぬ2011年9.11の旅
My 9-11 One man's journey through the unexpected events of September 11, 2001

会期:2011年8月11日〜12月31日
会場:Charles West Gallery

 写真家リチャード・アグデロによりカメラに納められた惨事。

Charting Ground Zero :Ten Years After

会期:2011年9月7日〜10月23日
会場:Woodward Gallery
詳細:http://www.woodwardgallery.net/exhibitions/9_11.html

 グランド・ゼロの移り変わりを航空学的に捉えた作品。

Ten Years Later: Ground Zero Remembered

会期:2011年9月7日〜10月30日
会場:Brooklyn Museum of Art
詳細:http://www.brooklynmuseum.org/exhibitions/ten_years_later/

Elena Del Rivero: [SWI:T]Home: A Chant

会期:2011年9月7日〜10月2日
会場:New Museum
詳細:http://www.newmuseum.org/exhibitions/450/

 現場近くのシーダー・ストリートにアトリエがある作家デル・リヴェロの9.11に関する個人的な記述や資料によってつくられた500フィートもある紙の作品。

  • 人々の記憶と復興の願いをこめて。