フォーカス
チャイナ・コネクション2 スウォッチによるアーティスト・イン・レジデンス
木村浩之
2012年01月15日号
コミュニケーションの場としてのアーティスト・イン・レジデンス
ハイエックは、アーティスト・イン・レジデンスをコミュニケーションの場と考えた。18の個室の室内と廊下を隔てる壁を可動式にして開放的な使い方を可能にしているだけでなく、フロアの中心に広い共用スペースがおかれており、アーティスト同士のコミュニケーションを促進するよう仕掛けられている。また、共用スペースへは、上階のホテルや下階のギャラリースペースからもアクセスができるようになっており、外部へも開かれたつくりとなっている。
アーティストは、自分のアトリエを離れて、知らぬ都市の知らぬアトリエで制作するのだ。したがって、その場所、そしてそこにいる人たちとの交流こそがアーティスト・イン・レジデンスの本質なのだ。そもそもアーティスト・イン・レジデンスのはじまりとも言えるローマ賞も、ローマであるということが何にもまして意味をなしていたではないか。地方の小村で地元住民と交流し、どっぷりとローカルの環境につかるのも場所との遭遇ではあるが、上海といういまを輝く都市の中心という場所は無数の人を呼び寄せ、魅了し、未知数の遭遇がありえる場所なのだ。ハイエックは、「私はアートは好きだが、コレクターではない」とあるインタビューで答えている。そんな彼だからこそ、再高値の作品をオークションで買い漁ることではなく、いまをときめくアーティストの制作現場、その創造の瞬間に立ち会えるということを最大のラグジュアリーと考えたのかもしれない。
もっとも、そんな見世物的な扱いは真っ平ごめんだというアーティストも多いのではないかと思う。しかし、その場の力学を制作に活かせるアーティストならば、何か面白いことができそうだと考えるのではないだろうか。
そもそもそんな特異な場所を提供しようとするのが、この特異なアーティスト・イン・レジデンスに込められた意図なのだろう。
一過性でもいい。いや、一過性だからいい。とにかく面白いものを。それこそが、着せ替え腕時計スウォッチの生みの親ニコラス・ハイエックの信念だったのだから。
2011年11月のホテルオープンと同時に第1期が始まっており、日本からもロッカクアヤコなど2名が参加している。オープニングパーティーから屋外に飛び出し、公共の面前での制作パフォーマンスを行なうなど、アピール性の強いプログラムとなっているようだ。
数年後には100点を超える作品が蓄積されていることになる。果たして、このコレクションがどのようなものになるのか、そしてこの場所が上海のなかでどのような存在感を発していくのか、そして更には、このようなアーティスト・イン・レジデンスがビジネスとアートが共存する今後のモデルケースとなりえるのか、今後も注目したい。