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「私がいなくても世界はあるの?」──ダヴィット・ヴァイス(フィッシュリ&ヴァイス)逝去

木村浩之

2012年07月01日号

「私は自分の魂の寝袋なの?」「僕って完全に目が覚めたことってあるのかな?」「私がいなくても世界はあるの?」「僕も日本人になれたのかな?」

──フィッシュリ&ヴァイス(「質問」シリーズ1981-2003)

フィッシュリ&ヴァイス
ペーター・フィッシュリ(1952年チューリヒ生まれ)とダヴィッド・ヴァイス(1946年チューリヒ生まれ)のアーティスト・デュオ

 1979年、プロジェクトベースで試しに一緒にやってみようというノリから始まり、デュオという契約も約束もないまま30年以上にわたり続いてきたという。アーティスト・デュオとして有名なギルバート&ジョージなどのようにプライベートを共有することはなかった。アーティスト的エゴの少ない、むしろ紳士的立ち振る舞いで知られているようだが、インタビューはある時期から基本的に受けなかったため、二人の仕事手法に関しては多く知られていない。とにかく対話という言語によるコミュニケーションを何よりも大事にしていたというから、むしろ建築家的な仕事の仕方ともいえるかもしれない。ちょうどヘルツォーク&ド・ムーロン(両者1950年バーゼル生まれ、1978年よりパートナーシップ)ら建築家のパートナーシップ形式を浸透させたスイス建築家らともちょうど同世代にあたる。

 ソーセージや粘土など、あえて「素人」らしい素材を利用したかと思えば、日常の品々「プロダクト」を発砲スチロール(ポリウレタン)を用い本物と見間違うくらい精巧に「コピー」したり、本人たちがネズミとパンダ(熊)のきぐるみを着てビデオに出て難しい話をしてみたかと思えば、猫がミルクを飲んでいるだけのビデオをつくってみたり、世界の空港の写真を数百枚の単位で取り集めてみたと思えば、言葉遊びのような質問を立て続けに発してみたり、表現手法は多岐広範に渡っている。
 作品に一貫していたのは、とっつきやすさ。しかしその背景には必ず考え抜かれたコンセプトと表現手法の見事な一致があった。
 MOMA、テート・モダン、ポンピドゥーセンター、金沢21世紀美術館などで個展を行なっており、2003年にはヴェネチア・ビエンナーレ(スイス館)にて金獅子賞を受賞している。



Peter Fischli & David Weiss『Fischli and Weiss' THE POINT OF LEAST RESISTANCE』(Icarus Films)


左:DVD『The Point of Least Resistance / The Right Way』(2008)パッケージ
右:金沢21世紀美術館での展覧会チラシ(2010年9月18日〜12月25日)



 アートとは何なのか、そしてアーティストとは何なのか。彼らが問い続けていた答えのない「質問」は、問いを発する時空間で意味が異なってくるものだ。それは色あせることなく次世代へ引き継がれていくだろう。
 魂が安らかに深い眠りへと就くことを、そして次にこの世界に生まれてくるときには日本人であることをお祈りしたい。

 なお、ペーター・フィッシュリの今後の活動予定については現時点で発表されていない。

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