フォーカス
“Under the Same Sun: Art from Latin America Today” vs“James Lee Byars: 1/2 an Autobiography”
梁瀬薫
2014年07月01日号
ジェームズ・リー・バイヤーズ:二分の一の自叙伝
James Lee Byars: 1/2 an Autobiography
MOMA PS1
2014年6月15日〜9月7日
バイヤーズ(1932-1997)は50年代終わりから禅をベースにしたようなミニマルな作風をパフォーマンスと平行して貫いたデトロイト生まれのアーティストだ。デトロイトで美術と心理学を学んだ後58年から10年間ニューヨークと京都を行き来している。能、神道に影響を受け、日本の寺とニューヨークの画廊などで紙を折るパフォーマンス的な作品も制作している。その後はニューヨークとヴェニス、サンフランシスコ、京都、スイスアルプス、ロサンジェルス、アメリカ南西部を行ったり来たりしたが、最後にはエジプトのカイロを選び、そこで亡くなった。
80年代後半にはニューヨークの画廊でパフォーマンスや作品展が開催されたり2004年にはホイットニー美術館での「パーフェクト・サイレンス」展は好評を得ていたが、バイヤーズのアートがここまで大々的に紹介されたことはなかった。
本展では、アポなしでMoMA(ニューヨーク近代美術館)に持ちこみ、運よく絵画・彫刻部門の初めてのキュレーターであったドロシー・ミラーに認められたというエピソードのある作品も含め、晩年のインスタレーション作品まで55点におよぶ作品が一堂に集結した。
イサム・ノグチの彫刻やリチャード・セラの黒いドローイング作品をも彷彿とさせる、初期の和紙に墨で描かれた掛け軸の作品群は、黒のオーガニックな塊が空間に広がる構成で、仏教哲学者鈴木大拙による有名な禅の思想「絶対矛盾の世界、抽象の極限と思われるものの具現」が自然と結びつく。《質問を集めている。あなたの質問を挙げて下さい》(1969)は、紙にタイプしただけの作品だが雲をつかむような行為で、ある意味で無限への追求だ。評論家ロバータ・スミスが彼のアートを西洋美術史において実際にミニマルでもコンセプチュアルでもないと評したが、光のまっく入らない暗闇の空間《ジェームズ・リー・バイヤーズの幽霊》(1969)や暗い部屋の壁に設置された切手大の小さなビデオ作品インスタレーション《100のマインド》(1970)を実際に体験すると納得できる。
もちろんバイヤーズは禅だけにインスパイヤーされたのではない。ヨーゼフ・ボイスへの手紙や1974年のパフォーマンス「ザ・パーフェクト・キス」、60年代後半のヴィデオ作品などには異なる動向が強く表われている。またユニフォームとなっていた金色のスーツはマイケル・ジャクソンをも彷彿とさせ、ポピュラーカルチャー社会の一面も見せる。そして「パーフェクション(完璧)」への強い信念が、彼の美と真実を追求するための作品を形成する基盤ともなっているのだ。
3,333本の本物の薔薇を使った半径1メートルの球体作品《ローズ・テーブル・パーフェクト》(1989)は究極のロマンスだろうか。バイヤーズは「初めてのまったくいぶかしげな哲学」と自分のアートを捉え、そのスケールは外に向かって無限に拡張する空間から何ミクロンという微塵のレベルにまで及ぶ。「(アートは)人間の欲望である知識の制限を超えること」だと言う。