2022年07月01日号
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アーティスト・コレクティブがつくるコレクティブな展覧会──「丸亀での現在」の挑戦

塚本麻莉(高知県立美術館)

2022年02月15日号

これまでartscapeでは、新型コロナの感染拡大がアートシーンにもたらしたさまざまな変化をお伝えしてきた。展覧会が延期や中止になったりすることのほかに、移動や接触が制限されることで、アーティスト・イン・レジデンス、滞在制作、作家による遠方へ出かけてのリサーチ、ワークショップなどは大きな制約を受けることになった。これらの活動は、美術館から地域へ、地元から他の地域へとつながる活動として、コロナ以前はアートプロジェクトの大きな潮流となっていたものである。第6波が直撃しているいま、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催中の「丸亀での現在」展が、コロナ時代のこれらの活動について、ひとつのモデルを示しているようだ。高知県立美術館の学芸員、塚本麻莉氏にレポートしていただく。(artscape編集部)


「丸亀での現在」、そう題された展覧会のポスターを眺めてみる。タイトルに地名が入っているので、現代アートに一定通じた人であれば、香川県の丸亀市を舞台としたいわゆる「地域アート」の展覧会ではないかと察するかもしれない。作品然とした写真画像のない紙面から出品作品を想像するのは難しいが、このポスターには展覧会を読み解くにあたり、キーとなる情報が散りばめられている。例えば「丸亀での現在」という展覧会名の上には矢印があるから、その上に並ぶのは過去のボツ案だろう。展覧会の顔とも言えるポスターで、あえてボツ案を公開するとはなかなか挑戦的だ。ここには名称変遷のプロセスすら見せようとする意志が働いている。

3組のコレクティブと美術館による「協働」展覧会


本展に参加したのはKOSUGE1-16★1、Nadegata Instant Party、旅するリサーチ・ラボラトリーという3組のアーティスト・コレクティブだ(以下、順にKOSUGE、ナデガタ、旅ラボと表記)。先に挙げた2組は、全国各地で開催される芸術祭や美術館の展覧会において参加者を巻き込むプロジェクト型の作品を数多く手掛けてきた実績を持つ。対する旅ラボは、メンバーにアーティストのmamoru や下道基行、デザインディレクターの丸山晶崇、アートマネージャーの芦部玲奈らが名を連ねているが、コレクティブ名の通りリサーチを主眼に置いており、ほかの2組とは活動の方向性が異なる。

本展で各コレクティブは確かに「ここ」でしかありえない作品、ないしはリサーチ結果を展示してみせたが、興味深いのはこの展覧会が「3組がそれぞれ個別に作品を制作し、展示するのではなく、全出品作家と美術館で協議を重ね、これまでにない展覧会のあり方を試み★2」た点だ。学芸員の企画趣旨に沿ってではなく、作家、しかも複数のコレクティブとの協議によって作り上げた展覧会とは珍しい。以下では、そのような展覧会がもたらした成果について、実際の会場順路に即して考えてみたい。

KOSUGEによる場所の問い直し

会場で最初に鑑賞者を迎えるのは、トラックのキャビンを模した仮設的な構造物である。キャビンにはヘッドライトが付いており、目の前の黒い壁とそこに掛けられた絵画を照らしている。絵画に描かれたのは、鑑賞者側にお尻を向けて走り去る動物の姿だ。

さて、鑑賞者はキャビンの内側に入り込めるため、運転席にいる状況を擬似的に体験できる。しかしキャビンの外に出て壁の絵画に近づくと状況は一変する。絵がモーター音を響かせながら一斉に動き出し、鑑賞者の手の届かないところへと「逃げていく」のだ。

KOSUGEによる《カウンタフォイル・リサーチ ─ ヘッドライトに照らされたクリーチャーたち ─》は、視覚的にも聴覚的にも圧倒的なインパクトを持つインスタレーションである。土地のリサーチに基づきながら、身体を張った工作力に支えられたKOSUGEの仕事は多くの場合、物理的な「動き」を伴う。本作も動くわけだが、問題なのは動くモノの内容とそれがインストールされた場所だ。鑑賞者が体験するのは、作品を見るはずの美術館で作品から逃げられるという倒錯的な状況である。KOSUGEは美術館を地方の夜道に見立て、場所が持つ意味をかき回して鑑賞者に発想の転換を促す。同時に、動物がひょいと飛び出してきても驚きはしない地方の夜道を取り上げ、ヒトと動物の生活圏がヒト側の都合だけでは線引きできないこと、ひいては都市部よりもその傾向が顕著な丸亀という土地の現在をも茶目っ気たっぷりに提示する。




ナデガタが提案する遠隔交流

KOSUGE の空間を抜けると、ぱっと視界に飛び込んでくるのはナデガタのメンバーがバラエティ番組顔負けの司会をする映像と、その上に掲げられた「HOME STAY HOME」の文字だ。

地域にコミットし、その場所において最適な「口実」を立ち上げ、多くの参加者を巻き込みながらひとつの出来事を現実として作り上げていく、というのがこのコレクティブの定型的な紹介文だが、本展での口実は丸亀での「ホームステイ」である。しかし「ステイホーム」が原則のコロナ禍にあっては、同国内でも遠方の住人が丸亀住民の家庭に泊まるのは憚られる。そこでナデガタが提案したのが、オンラインによる擬似ホームステイ、題して《ホームステイホーム》だ。



カラフルな装飾で緩やかに区切られた部屋では、公募で集められた丸亀市民からなる28組の「ホスト」と、日本各地に住む34組の「ゲスト」がZOOMを介して交流した記録映像が流れている。家族や友人同士といったグループ単位で参加した組も多く、全体の参加者は約90人にのぼる。

映像ではゲストとホストの人々がたどたどしい挨拶から会話を進めていく。ひとりでの参加はもちろん、友人どうしや幼い子どもを含めた家族単位など、ゲストとホストともに顔ぶれは実に多彩だ。彼らの会話には初対面ならではの話題を展開させようとする努力が垣間見える。ところがそのぎこちない会話が、コロナ禍によって他者とのコミュニケーションが容易でなくなった今だからこそ、鑑賞者視点から見ても沁みるのだ。



会場ではオンラインホームステイ映像のほか、やはりスマホを介して繋がった状態のホストとゲストが美術館の前庭で行なった協働作業の様子を捉えたフィナーレ映像も用意されている。それをもって大団円で幕を下ろす本作は、丸亀の住民を主役に据え、コロナ禍の時代をも映した初対面どうしの人間が織りなすドキュメンタリーとして観ることもできる。

旅ラボがもたらしたまさかの展開

KOSUGE は丸亀という地方と美術館を、ナデガタは丸亀の住民とコロナ禍という時代を突き刺す作品を提出した。ここまででも十分な充足感があるのだが、それで終わらなかったのが本展である。最後にどんでん返しをしたのが旅ラボだ。

部屋の中央には資料入りの2つの展示ケースが置かれ、左右の壁には年表が貼られている。事務室のような外観の部屋は、それまでの賑やかな展示とは落差がある。旅ラボによる《ふたつの島》は、リサーチ結果を提示するための作品もとい情報公開のための空間だ。ではリサーチの対象は何か。KOSUGEとナデガタである。旅ラボは出品作家でありながら、同じ出品作家の2つのコレクティブの調査に振り切った。

とりあえずは入ってすぐの壁に貼られた「1990-2022年表(グループ年表)」から読んでみる。年表は3段組みで、中央の「現代美術史年表」を挟むかたちで上下にKOSUGEとナデガタの活動歴が時系列に列挙されている。ここでの現代美術史はフラットに編まれたものではないが、彼らの活動と時を同じくして美術界で何が起こったのかを効果的に描出している★3。2021年まで進むと様子が変わり、今度は張り紙で埋められていく。張り紙はKOSUGEとナデガタによる本展出品作品のドラフトやドローイングだ。ここではたと気づく。この年表が、鑑賞者が立つ現実──「丸亀での現在」に接続されたことに。

続く壁には複数の冊子が置かれ、そのうちの『寄稿文集』には識者による2つのコレクティブの比較エッセイが収められている。傍らのモニターでは、旅ラボのmamoruと下道基行が展覧会の制作プロセスを赤裸々に明かしつつ、あらゆる角度からKOSUGEとナデガタを比較考察するという3時間超の「映像フィールドノート」が流れる★4

とにもかくにも旅ラボはひたすら真面目に2つのコレクティブについてリサーチしている。あまりの本気度に戸惑いさえ覚えた筆者が最後に対面したのが、先の「1990-2022年表」とは反対の壁に貼られた「1976-2022年表」である。これはKOSUGEの土谷享、ナデガタの山城大督、野田智子、中崎透ら4名の生誕時から学生時代を経て現在に至るまでの軌跡が綴られた「個人年表」だ。読み進めると4名と旅ラボのメンバーらが近しい年齢で、長い付き合いの間柄であることが浮かび上がる。





リサーチが示すもの

本展において旅ラボは、年表作りをはじめとしたきわめて美術史的なアプローチから、鑑賞者が立つ「ここ・丸亀」にKOSUGEとナデガタの活動を接続し、なおかつ個人年表でコレクティブの枠組みをほどき、彼らの私的な関係性をも明らかにした。旅ラボが提示した無数の情報から見えてくるのは、同時代の横のつながりを考えずしてはアーティスト・コレクティブの活動をアーカイブ化できないという事実である。

もうひとつの重要な点は、旅ラボとほかの2つのコレクティブとの本展におけるアウトプットの決定的な違いで、旅ラボの作品(リサーチ結果)が、丸亀という土地への言及を回避したことだ。会場の資料や「映像フィールドノート」でも触れられるが、コロナ禍によってやむなく中断したものの、企画検討時点での旅ラボは《ふたつの島》というタイトルで、まったく内容の異なる別の魅力的なプラン──丸亀市の塩飽諸島の小学生と韓国の島に合宿してリサーチする──を検討していた。しかし最終的に旅ラボは、当初の美術館側が期待したであろう丸亀のリサーチをベースにした作品制作には応えなかった。恐らくその背景には、「ぬるく」「アーカイブ化しにくい」地域に関わるアートプロジェクトに与することへの反発があるように筆者は感じた。地域を活気づけ、住民を喜ばせることが目的なのではなく、自分たちにとっての表現の必然を突き詰めた活動が、アートプロジェクトあるいは地域アートとして一緒くたに語られることへの違和感が、彼らをこのようなアウトプットへと駆り立てたのではないか。

地域を起点に活動する2つの代表的コレクティブの本質に迫った旅ラボ。彼らの仕事は、展覧会の開幕までの3年近い準備期間に繰り返し実施したという作家と学芸員によるオンライン全体会議、つまり継続的にみんなで考え続けるという協働がもたらした成果でもある。

コロナ禍という困難な時代に、丸亀の猪熊弦一郎現代美術館でしかできなかった、3つのコレクティブによる協働の現在形を見せる展覧会。だからこそ本展のタイトルは「丸亀での現在」なのだ。

結びにかえて

展覧会の帰りに美術館の通路を歩いていると、この館の創設に携わった画家、猪熊弦一郎の言葉が貼られていた。


コンテンポラリー、今の、表現したものをここへ並べるっていう特殊な美術館を作ってるわけなんですね。だから、これからフューチャーに向かって、どういうふうに作家が方向付けて、今にないものを発見していくかっていう、一番難しいことの結果をこう見せる美術館であってほしいわけですね。★5

アーティスト・コレクティブ、すなわち作家たちのアクロバティックな発想や展開をも受け止めた美術館。その懐の深さも、本展を考えるうえで忘れてはならないだろう。


★1──2001 年より車田智志乃と土谷享によるユニットとして活動を開始し、現在は土谷が代表として活動している。
★2──展覧会のハンドアウトより引用。
★3──ここでの現代美術史年表は「グローバル/ローカル」、「ソーシャル/アート」、「オルタナティブ/コレクティブ」という3つの柱の設定に基づいて編まれている。監修は美術家・美術批評家の石川卓磨。
★4──動画は旅するリサーチ・ラボラトリーの公式サイトで閲覧することができる。https://www.travelingresearchlaboratory.com/archive/18809/
★5──1993年5月14日、猪熊弦一郎が美術館職員に語った話より、一部引用。

丸亀での現在 In Marugame – At the Moment – Three Artist Collectives

会期:2021年12月18日(土)~2022年3月21日(月・祝)
会場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県丸亀市浜町80-1)

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