2020年01月15日号
次回2月3日更新予定

フォーカス

複数形の「ルーヴル」を描く試み

光岡寿郎

2009年05月15日号

美術館とテクノロジー

 展示形式とは別に加えられたアクセントに、会場入り口付近に設置されたタッチパネル形式の大型ディスプレイがある。この端末は、同展に協賛する大日本印刷が技術供与しているものだ。国立西洋美術館は、今年2月に試験導入されていたiPodを利用した展示ガイドのプロジェクト「TOUCH THE MUSEUM」など、近代美術を扱う美術館としては積極的に先端テクノロジーの導入を試みている。
 このスクリーンでは、同展の展示作品のうち四点の作品を鑑賞することができる。タッチパネルによって来場者は自由に作品を選び、スクリーンに投影されたほぼ等寸の絵画に実際に触れることでその細部を鑑賞することができる。例えば、そのうちのひとつであるヤン・ブリューゲル(父)とその工房による《火》という作品では、中央の錬金術師を拡大すると「物質の変容」という絵画内部における錬金術の象徴的な意味が提示されるという具合にである。この技術に関しては、17世紀の絵画を中心とした今回の展示には適していたと言えるのではないか。というのも、絵画における細部への注目とその細部が象徴する意味というのは、まさに図像学的な関心であり、この技術は図像学的解釈の視覚化を可能にしているからである。恐らく、特に宗教や神話を主題とした絵画に関心を持ちながらも、聖書や美術史の入門書にまでは手が出ないという来館者にとって、絵画をより深く味わうための良いきっかけになるだろう。タッチパネルの反応も滑らかで、操作性が良いのも好感が持てる。
 残された課題としては、このアイデアをどのメディアに載せるかという点だろう。というのもひとつ気になったのは、そもそもの会場の混雑に加え、このディスプレイ自体が人だかりを作っていたからである。それこそ、iPod TouchであるとかNintendo DSのような携帯タッチパネルにまで拡張することが技術的に可能であれば、より若い来館者にまで受け入れられるのではないか。少なくとも、中尾彬のナレーションで展覧会をテレビ番組の疑似体験として消費する現状のオーディオガイドに比較すれば、新しい鑑賞体験を提供することになるだろう。


タッチパネルのディスプレイ

 今まで「ルーヴル展」というと、展示される作品は異なるものの同じような印象を与えることが多く、ひとつの「ルーヴル展」を断片的に見せられているような印象をしばしば受けた。だが、上述のような試みが積み重なることで、ルーヴルの異なる側面、つまり複数形のルーヴルが見られるようになれば、主催者、来館者両者にとって幸せなはずである。

ルーヴル美術館展──17世紀ヨーロッパ絵画

会場:国立西洋美術館(東京・上野公園)/Tel.03-5777-8600(ハローダイヤル)
東京都台東区上野公園7-7
会期:2009年2月28日(土)〜6月14日(日)

文字の大きさ