フォーカス

アジアと建築ビエンナーレを考える

五十嵐太郎(東北大学教授/建築史、建築批評)

2010年01月15日号

深セン・香港都市/建築ビエンナーレを歩く

 1月に2009深セン・香港都市/建築ビエンナーレを見学した。2005年にスタートし、これで三回目となるイベントだが、アジアにおける国際展は、グローバリズムとともに確実に増えている。とはいえ、建築のビエンナーレはめずらしいだろう。ロッテルダムやリスボンなど、ヨーロッパに多く、もちろん日本でも建築に特化した大がかりな国際展のシステムはない。深センは香港と共催し、国際的なキュレーターのチームをつくり、アジアの建築家を中心としたアーティストや欧米からの参加者で会場をにぎわせていた。台湾でのコミッショナー審査のとき、台中の国立美術館の正面でちょうど展示をやっていた打開連合設計事務所(Open United Studio)も、ブループリントをイメージさせる得意な手法によって、都市の記憶を喚起するインスタレーションを出品していた。ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展2008に参加した中国のMAD、ヴェネツィア・ビエンナーレ美術展2009で存在感を示したMarjetica Potrc、横浜トリエンナーレ2008のDidier Fiuza Faustinoなど、やはり国際展の常連は多い。日本からは太田佳代子の推薦により、藤本壮介や中山英之らの若手がインパクトのあるインスタレーションを披露していた。日本人の佐伯聡子とシンガポール人のKok-Meng Tanのユニット・KUUも参加しているが、全体としてもアジアの新世代が目立つビエンナーレだった。
 メイン会場である深センのシビックセンターを訪れてよくわかったのは、このビエンナーレが作品だけではなく、現実の都市そのものを見せようとしていることだ。特に遊具的なものから都市批評的なものまで、さまざまな屋外展示は背景となる建築群に目を向けさせる。壁に囲まれた将来の再開発予定地も、作品の設置場になっていた。まず地下鉄を出て、すぐ目に飛び込む巨大なシビックセンターに圧倒され、隣に並ぶ図書館と劇場へ連結したメガストラクチャー、あるいは少年宮に驚き、これらのまわりを高層ビルが囲む。別会場に足を運べば、コピー建築を集めたテーマパーク「世界の窓」につい寄りたくなる。なるほど、ヴェネツィア・ビエンナーレは結果的に水都を鑑賞させるし、日本でも越後妻有トリエンナーレが里山の風景を見る経験をもたらしているが、歴史的な街並みや過疎化の進む自然ではなく、人工的な都市化の極北を突きつけるのが、いかにも深センらしい。つまり、これは都市をプロモーションするイベントなのだ。中国も、共催している香港も、ヴェネツィアにパヴィリオンはないが、それぞれにアルセナーレやその近くに場所を確保しているのは、台湾と同様、世界に向けて建築のプレゼンスを提示しようとするからだ。一方、ホームグランドでのビエンナーレ開催は、いみじくも深センが1979年に経済特区に指定されから30周年の節目にあたり、成長を続ける都市戦略と結びつくものである。


左=BAI Xiaoci, A Documentary for the Opening of China Architecture Thinking Forum 2009
右=LIU Xiaoliang, Demolition Relocation


左=The Dry Dairy, A Paper Banquet, or, the Tiger Who Came to Tea
右=sciSKEW collaborative, Small children, small city


左=Sou Fujimoto, Walking Chairs
右=Hideyuki Nakayama, Walking on Water
すべて筆者撮影

第12回ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展

会場:ジャルディーニ地区(Giardini di Castello)、アルセナーレ地区(Arsenale)など
会期:2010年8月29日(日)〜11月21日(日)