フォーカス
市場に新しい旋風を送る冬季アート・フェアとアカデミックな美術の伝統を引き継ぐAICAUSA AWARD(全米美術評論家連盟アワード)
梁瀬薫
2010年03月01日号
全米で最も大規模なアート・バーゼル・マイアミ。まるで郊外にあるアウトレット・モールさながらの規模で、開催初日の数時間で目ぼしい作品が完売し、あたかも「ブランド品のサンプルセールだ」というニュースが伝えられた、バブル絶頂期の2年前のフェア。しかし2009年のフェアは規模も小さくなり、作品プライスも含め、落ち着きを取り戻したかのようだ。アート市場のバロメーターともいえるフェアだが開催の地域を巻き込み、大衆に話題を提供し、社会に影響を与えてきた。一方、AICA(世界70カ国が加盟する美術評論家連盟)が毎年冬季にニューヨークの主要美術館で開催しているアワード・セレモニーは、フェアの華やかさには欠けるが、限りなく公平に優れた芸術に賞を贈り、アートを奨励している。経済や社会が低迷すればするほど、アートはオルタナティブな手段として多くの役割を担う。
世界の現代美術が集結するニューヨークのアートの見本市
9月のギャラリーオープン・シーズン。毎年3月第一週目のニューヨークでは、アートフェアが各地で開催され街中が賑わう。世界的には、バーゼルが世界最大級のアートフェアとして知られ、その姉妹フェアであるマイアミ・アートフェアも美術市場を揺さぶってきた。不況の煽りで一時期の盛況ぶりはなくなったが、サテライトやオルタナティヴ・スペースで多様なショーが企画され、派手な展開を繰り広げている。そんなマイアミのアートフェアは、貪欲なコレクターたちが我先にと作品を買い付ける、ビジネス中心の印象があるが、ニューヨークのフェアは、それだけではなく、主な美術館や芸術団体も協力し、さまざまなイベントなども繰り広げられ、画廊が一押しする作家や新人作家に、美術評論家や美術館キュレーターも注目する。
フェアのなかでは、1913年に「国際現代美術展」としてアメリカ画家・彫刻家たちが組織した大規模な美術展「アーモリー・ショー(The Armory Show)」が最も伝統のあるもので、当時マチス、セザンヌ、ゴーギャンなどが参加し、主にフランスを中心としたヨーロッパとアメリカ国内の300人の前衛作家や工芸作家などによる約1,250点もの作品が発表された。印象派、フォービズム、キュービズムなどまったく新しい試みのアート作品に、ニューヨークの美術評論家達は酷評したが、アメリカの美術界と大衆に多大な影響を与えた。デュシャンの《階段を降りる裸体(1912)》は特に論議を醸し出し、これがニューヨーク・ダダを誕生させたというストーリーが残る伝説のフェアだ。ちなみにアーモリー・ショーというのは開催会場にレキシントン・アヴェニューのニューヨーク第69部隊兵器庫が選ばれたため。現在は近代的なピアの会場で大規模なフェアが開催されている。
またマイアミ・ビーチに君臨するパルスは、ニューヨークでも最先端現代美術の見本市として人気のあるフェア。今年からウェストサイドの天井の高さが30フィートもある広大な貨物列車の倉庫に場所を移し、インスタレーションをはじめとするスペシャル・プロジェクトを企画している。一画廊ではできないダイナミックな旋風が巻き起こる。
ニューヨーク冬のアートフェア
アーモリー・ショー The Armory Show
Scope art Show
パルス・アートフェア Pulse art Fair New York