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街とアートと人がともに成長していく美術館──Arts Towadaグランドオープン・レビュー

白坂由里(美術ライター)

2010年05月15日号

「Arts Towada」の第二幕とは?

 「Ars Towada」は、このグランドオープンを「第二幕」とも謳っている。その理由を、十和田市現代美術館運営委員長を務める森美術館館長・南條史生氏に尋ねた。
「美術館の開館で第一幕、今回の野外彫刻のオープンで第二幕の始まりです。『Ars Towada』はこれで完結ではなく、これから街のなかにもっと出ていこうとしています。必要に応じて増殖し、状況や環境に適応するという西沢さんの建築コンセプトとつなげて白い箱が街のなかに増えていったり、企画展を美術館の外で行ない、空き店舗などにもアートが進出していったり。街に開かれ、街と一体化する、社会における新しい美術館のありかたをめざす。それが形になっていったとき、この美術館は従来型ではないなということがもっと見えてくると思います」
 現在、美術館から商店街への人の流れはまだ少ない。今回、商店街全体が草間作品を象徴する赤い水玉で覆われていたのだが、企画展に使われていた店以外は、作家が空間を占拠するような唐突さを私自身は覚えた。もちろん商店街が元気になればいいのだけれど。
 また、アート広場の後ろに見える街並みを見ると、どのようにアートを普及していくか考えどころでもある。自然が豊かで昔ながらの木造家屋が残る懐かしい街並みでもなく、デザインされた美観地区でもない、簡易的でつながりのない近代住宅の景色。しかし日本ではこの美に無頓着な風景こそ、どこにでもある景色だ。私自身は、映画や演劇や文学で描かれる日常に比べて、アートの描く日常が美し過ぎるように感じることもある。絵にならない風景を絵になるものにしていくのか、あるいはそのまま受け入れていくのか。アート広場には壁を立てたり、樹々を植えたり、あるいは地面に起伏をつくるという提案もあったが、美術館建築の考え方にも沿って、広場を囲い込まず、外の風景を遮断しないでそのまま受け入れることになったという。
 比較見本がなければ意識を変えることは難しい。しかし、街の人々から何か動きが起こることが本望でもある。式典では、運営委員の一人である小池一子氏が「こうしたアートとともに育っていく子どもたちがどんなふうに成長していくのか楽しみに思います」と語り、大勢の大人たちも耳を傾けていた。「勉強として教わるのではないアート体験を子どもたちに提供する」という南條氏らの思いは徐々に浸透していくのではないだろうか。
 南條氏は「十和田市政や商工会議所において、まちづくりとアートを結びつけるさまざまな事例にさらに関心を寄せ、再開発事業のあらゆる場面でアートを取り入れていってほしいと思います。そうしてさらなるステップに進むことができれば」とも語っていた。
 西沢建築には外界が映り込み、作品もまる見えだが、作品を見ている人々もまる見えだ。アートにかかわる街と観客の姿が、美術館の景色を動かしている。歩道に点在する十和田の産物であった馬の彫刻、そこから発想したチェ・ジョンファの馬の彫刻を見ながら、十和田らしいリズムが生まれていけばいいと思った。


十和田市現代美術館
写真、特記以外は筆者撮影

アーツ・トワダ グランドオープン記念「草間彌生 十和田でうたう」展

会場:十和田市現代美術館
十和田市西二番町10-9/Tel. 0176-20-1127
会期:2010年4月24日(土)〜8月29日(日)

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