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気になるチェルシー界隈の画廊展をピックアップ アートシーンを系統づけるのはマルチ社会のシアトリカルなマルチメディア

梁瀬薫

2010年10月01日号

 9月のニューヨークは9.11のメモリアルはもちろん、一年を通じてフェスティバルとさまざまなイベントで最も盛り上がる。ファッション週間、フィルム・フェスティバル、ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックの現代音楽祭やユダヤ週間をはじめ、多くの文化イベントが市内各地で開催される。今年で84年目を迎えるリトル・イタリー地区の「サン・ジェンナーロ祭」はイタリア移民の多いニューヨークでは重要なストリートフェアだ。アートシーンも9月一週目の月曜日レイバーデイの翌日からシーズン開幕となる。長引く不景気をよそに、チェルシーで連日続く画廊オープニングは、クラブのような人集りで、オープニングが重なるため、なかには深夜12時までパーティーをする画廊もあるほど。また、新名所となったチェルシーの「ハイライン」も、壁の落書きも、建設中のビルに架けられている絵も、トラックに絵を積んで街角で展示即売している作家もアートシーンの立役者だ。


チェルシーの「ハイライン」。1930年、マンハッタンでは最大の工業地区であったウェストサイドの貨物用線路が地上約9mの高架線となった。1980年以降廃線となり放置されていたが、NY市と支援グループにより公園として市民に開放されることが決まり、10年以上をかけた工事がほぼ完成し昨年オープンした。線路は34丁目まで延びているが現在ミートパッキング区から20丁目までが完成している。パブリックアートも所々で展開している。なかでもスティフン・ヴィチエロの「分刻みの鐘」と題されたインスタレーションは印象的だ。設置されたスピーカーから、ニューヨークのあらゆる鐘の音が毎分鳴る。救急車やパトカーのサイレンやストリートの雑音以外の、都市の音だ(来年6月まで)。[筆者撮影]


壁の落書き[Photo by Jacques De Mélo]

グリニッジヴィレッジの建設中のビルを利用してディスプレイしているアート[筆者撮影]

バーバラ・クルーガー ホイットニー美術館屋外プロジェクト

BARBARA KRUGER
2010年9月1日〜10月17日
Washington Street & Gansvoort Street
http://whitney.org/WhitneyOnSite

バーバラ・クルーガーのパブリックアート[筆者撮影]

 ハイラインの入り口がある、最もファッショナブルなミートパッキング区のホイットニー美術館の移設予定地が屋外アートの場となっている。3回目の展示に起用されたバーバラ・クルーガーの作品は、これまでの屋外アートの主流となってきたカラフルな壁画作品とは打って変わり、黒の文字だけの提示だ。大きさの異なる文字が建設予定地のあらゆる場に一杯に貼られ、その内容より先に空間とのコントラストに目が奪われる。文字が見事な調和を保ち、美しいインスタレーション作品として完成されている。平面的な強いフォントで描かれている文字は『不動産・アート・金・セックス』『信じる+疑う=健全』『あなたは、あなたが思っているような人ではない』など、クルーガー独特のシニカルでパンチの効いたフレーズだ。ハイラインに上って初めて作品だと気がつく人も多い。80年代後半、まだソーホーにあったメアリー・ブーン画廊のシャッターに描かれていた文字をアートとは思わず、やはり足を止められたことがあったのを思い出した。

ロブ・プルイット「パターンとデグラデーション」

ROB PRUITT, PATTERN AND DEGRADATION
2010年9月11日〜10月23日
Gavin Brown’s Enterprise(620 greenwich street) http://www.gavinbrown.biz/
Maccarone(630 Greenwich Street) http://www.maccarone.net/

Rob Pruitt 展示風景より[筆者撮影]

 増改築されて広大なスペースとなったGBW画廊でのロブ・プルイットの新作展は、ペンシルヴァニア州に多く住むアーミッシュに伝わる「ラムスプリンガ」という伝統にインスパイアされたインスタレーションだ。ラムスプリンガは思春期を迎えた若者がアーミッシュ以外の世界を知るためにコミュニティーから出て暮らすという習慣だ。英語で「ラムスプリンガ」とは「走り回る」という意味だそうで、プルイットは「永遠のラムスプリンガ」を演出している。お馴染みの派手なグリッターが施されたパンダやセルフポートレート絵画作品をはじめ、写真コラージュ、段ボールの空き箱を重ねてつくった靴下を履いた人物、パターンが施されたタイヤの彫刻、プラスチックのシナモンロールのトレイといったさまざまな要素で、チープでポップなアメリカ文化の表情を見せている。そこからどう、宗教や性の違いや平等をとらえるかということではなく、今何が現代アメリカ文化をビジュアル化できるかという点に注目したい。

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